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水谷隼、全日本決勝を語る③【第3ゲーム】タイムアウトで及川が難局を打開

 名勝負になった2021年全日本卓球男子シングルス決勝及川瑞基(木下グループ)対森薗政崇(BOBSON)の攻防を、水谷隼(木下グループ)が解説するスペシャル企画。
 冷静な読みが冴える森薗が、第1ゲームに続き、第2ゲームも連取する。立て続けに3ゲームを落とすと後がなくなる及川は、第3ゲームで打開策を見いだせるのか。水谷が両者の攻防を、鋭く深く読み解く。

タイムアウトを機に及川が踏みとどまり、1ゲームを返す

及川 0-1 森薗(及川がフォア前サービスから3球目をミスし、森薗が得点) 
及川 0-2 森薗(及川がロングサービスから3球目をミスし、森薗が得点)
 2本続けて攻めての凡ミスなので、及川にとっては痛いですね。ただし、及川からすると、森薗があそこまでいいレシーブをしてくるとは予想できていなかったと思います。
 今のところ、森薗は得意のチキータであまりレシーブできていませんが、チキータ以外のレシーブも悪くありません。そのため、及川は出すサービスに相当困っていると思います。

 及川は、ベンチの邱さん(邱建新木下マイスター東京総監督)からロングサービスを多めに出した方がいいとアドバイスされていると思います。加えて、僕が及川のベンチだったら、「もっとバック前にサービスを出せ」とアドバイスしますね。
 森薗のようにチキータが得意な選手にとって、バック前は意外と穴なんです。バック前は、フォア前のように踏み込む勢いが使えず、手だけでチキータしなければならないので威力が出しにくいからです。また、チキータが得意な選手は基本的にフォア前にサービスが来るのを待っているので、バック前に出すと一瞬反応が遅れやすいこともメリットです。そのため、バック前はとても有効なのですが、この試合で及川は、まだ1本も森薗のバック前にサービスを出していません。
 ただし、バック前は相手のチキータを封じやすい半面、自分も「3球目が攻めにくい」というデメリットもあります。左利きの選手にこちら(及川)のバック側にレシーブされたら距離が短い分、時間がなくて対応が難しい上に、フォア側の厳しいコースへのレシーブにも備えなければならないからです。この理由から、及川はサービスをバック前に出すのを控えているのかもしれません。

及川 1-2 森薗(及川がラリーで得点)
 得点できませんでしたが、森薗のバック側へのロングサービスはとてもよかったと思います。
 ここまで、森薗は徹底して及川のフォア前にサービスを出してきました。その上で、このゲームの1本目にロングサービスを出した戦術は、「バック側にロングサービスもある」と相手に警戒させる上でとても有効です。

及川 1-3 森薗(及川がフォア前に来たサービスをレシーブミスし、森薗が得点)
 及川は、フォア前に少し長めに出してくる森薗のサービスにかなり苦しんでいます。
 大きな理由としては、打球点が遅いんですよね、及川は。これは彼のレシーブ全般に言える課題ですが、打球点を落としてからレシーブしようとして、そこから「サービスが台から出てくる」と判断してラケットを引くので、もう時間がないんです。
 いずれにしても、及川の次のサービスです。さっき2本取られているので、そろそろ何かで打開していかないと、このままズルズル行ってしまいます。

及川 1-4 森薗(森薗がチキータレシーブからラリーで得点)
 及川がミドル前に出したサービスは悪くなかったのですが、森薗が非常にいいですね。相手がサービスを変えてきた時に、1回目でチキータしています。ここまで、森薗は及川が変えてきたことに対して、1回目でうまく対応しています。  
 及川はだんだん出すサービスがなくなってきました。

及川 1-4 森薗(及川がタイムアウト)
 タイムアウトを取るとしたら、ここしかないというタイミングですね。このゲームを落として0対3になったら逆転するのはほぼ不可能です。試合を見ていて、ここで及川が何かを変えられなかったら絶対に勝てないと思っていました。だから、この1分間が本当の勝負でした。邱さんは、現状を打開するアドバイスを授けたと思います。
 僕がベンチだったら、ここまでサービスが効いていないので、バック前と逆横回転系のサービスを使うようアドバイスします。それに加えて、森薗はストップもうまく止めてきているので、上回転系のサービスも多めに出して長くレシーブさせたいところです。
 また、及川はここから森薗のバック側へ長くレシーブすることが多くなります。レシーブから攻めても入らないので、それだったら打たせる戦術ですね。及川は守備がうまいので、打たれてもそれほど怖くありません。だから、「もっと守備を生かしたプレーをした方がいい」というアドバイスを邱さんから受けたのだと思います。

及川 2-4 森薗(及川がロングサービスで得点)
 ここでの及川のロングサービスは素晴らしいです。タイムアウトで1分間休憩した後に出すサービスというのは緊張するものです。そこでロングサービスを出すというのはとてもいい戦術ですね。相手からすると、(ロングサービスを)1番待っていないタイミングです。僕も、タイムアウト明けやラブオールの時によく使う戦術です。

難局を打開する及川の起死回生のツッツキレシーブ

及川 3-4 森薗(及川がフォア前のサービスをツッツキでレシーブし、得点)
 初めてツッツキを使いましたね。しかも、反応が早かったので、初めからツッツキでレシーブすると決めていた感じです。間違いなく、邱さんのアドバイス通りにレシーブしたと思います。
 一方の森薗からすると、及川の新しいレシーブに対してしてミスしたというのが、致命傷に近いです。ここまで完璧に立ち回ってきましたが、初めて新しいプレーをされた時にミスが出てしまいました。そうなると、どうしても狙われやすくなってしまいます。

及川 4-4 森薗(及川がツッツキレシーブからラリーで得点)
 森薗は及川のツッツキに対し、さっきはバックハンドでミスしたので、今度は修正してフォアハンドで回り込みましたが点数が取れませんでした。森薗は、ツッツキに対する点数の取り方が分からない感じでしょう。
 及川は、ガンガン攻めて点数を取ろうとは思っていません。ここまで、森薗にうまい具合に攻めさせられてミスが多く出ていたので、逆に相手に打たせてどうなるのかを試している感じだと思います。

及川 4-5 森薗(森薗がラリー戦を制し、得点)
 及川は、バック側にロングサービスを出すと見せかけてフォア前に出すというサービスを徹底していますね。
 それにしても、及川はボールが遅い。このラリーでは、本当だったら3球目、5 球目、7球目のどこで決まっていてもおかしくありません。でも、及川だから決まらない(笑)。
 とはいうものの、及川は守備に回ってから強みを発揮します。タイプ的には、呉尚垠(2005年世界卓球上海大会男子シングルス3位。現在は韓国男子ナショナルチーム監督を務める)やクリシャン(元ルーマニア代表。2003年世界卓球パリ大会男子シングルスベスト16)に似ていますね。自分からあまり攻めないで、カウンターやブロックなどで相手をいなしながら振り回しながらチャンスをうかがっていくスタイル。ですが、この試合では逆に森薗に打たされています。

レットからひらめいた新サービスで及川が森薗に迫る

及川 5-5 森薗(及川が逆横回転系サービスから3球目で得点)
 サービスがネットにかかりましたが、及川は森薗のバック前に出そうとしましたね。ここまでの数本は、(タイムアウトで)邱さんのアドバイス通りにサービスを出していると思います。
 そして、仕切り直して、この試合で初めて逆横回転系サービスを出しました。初めて出したのにもかかわらず、サービスの質が素晴らしいですね。
 加えて、ネットにかかってサービスがやり直しになり、そこで逆横回転系サービスに切り替えたことも素晴らしい。森薗からすると、ネットにかかったバック前のサービスがインプットされてしまいます。その上で、このようにガラッとサービスを変えられたら絶対に待てません。
 森薗はこの後、及川の逆横回転系サービスにすごく苦しめられることになりますが、これも、先ほどの及川のツッツキレシーブをうまく処理できなかったときと同じで、新しいプレーに対応できなかったことが最後まで響いてしまいます。
 奇跡のようなネットも手伝い、及川がすごくいいタイミングで新しいサービスを出しましたが、これをレシーブできなかったことは森薗の弱点でもあります。森薗は、新しいことへの対応力に課題があります。そのため、及川としては、こういうふうにどんどん新しいプレーを行っていくべきですね。

及川 7-5 森薗(及川がフリックレシーブからラリーで得点)
 森薗がサービスを逆横回転系に変えてきました。出す(サービスを変える)タイミングは抜群でしたが、及川は初めて出されたサービスなのに1本目からいいレシーブをしました。相手が変えてきた時にすぐさま対応することは、試合で勝つために本当に大切なことです。
 ここで及川がうまく対応できなかったら、レシーブで考えなくてはいけないことが1つ増えてしまうところでした。

及川 8-5 森薗(及川が逆横回転系サービスからラリーで得点)
 及川は、今度はバック前に逆横回転系サービスを出しました。森薗のレシーブも悪くありませんでしたが、及川の調子が上がってきましたね。このように強いバックハンドドライブはこれまでに1本あったくらいで、ずっと入れるだけでしたが、プレーが積極的になってきました。

及川 9-5 森薗(及川がラリー戦で得点)
 及川は、これまで効いていた逆モーション気味にフォア前に出すサービスに戻してきました。
 得点にはなりましたが、やはりラリーになったときですよね。及川は攻めているのに、なぜかいきなり攻守が逆転してしまうという、このパターン。しかも、(森薗の)バック側に打っておけばいいのに、なぜかミドル(センターライン付近)かフォア側に打つんですよ。これは悪いところですね、本当に。

及川 10-5 森薗(及川がストップレシーブからラリーで得点)
 森薗は縦回転系のサービスに変えましたね。次のゲームを見据えるという意味ではいいプレーです。

及川 11-5 森薗(及川がストップレシーブからラリーで得点)
 森薗は、またサービスをミドル前に変えてきました。これもすごくいいと思います。ただし、及川が2本とも完璧にレシーブしたので、これだというものは見いだせずに終わってしまいましたね。

●男子シングルス決勝

第3ゲーム 及川瑞基 11-5 森薗政崇

新たなサービス、レシーブでゲームを返した及川。一方の森薗は対応にほころび

 及川は、1-4でタイムアウトを取ってから、苦労していたフォア前に来たサービスに対するレシーブをバック側へ長く返すことによって、かなりいい形になりました。
 バック側に長いレシーブというのは、トップ選手同士の試合ではチャンスボールです。そのため、戦術として試しにくいものですが、及川はよほど追い込まれていたのだと思います。攻撃的なレシーブがほとんど失敗に終わっている中、唯一残されていた手がバック側への長いレシーブでした。それが功を奏しましたね。サービスも、初めて逆横回転系を使ってから、今のところ非常に効いています。

 森薗は、このゲームに限って言えば、1、2ゲーム目まで及川の変化に完璧に対応していたのが、ついにほころびが出てしまいましたね。序盤にずっと同じサービス(フォア前)を出し続けていたことによって、及川に対応されたときに出すサービスがなくなってしまいました。ゲームカウント2対1でリードしていますが、ラブオールに戻ってしまったような感じでしょう。またゼロからスタートしなければいけないみたいな。
 次のゲームで森薗がどういうふうに対策を立ててくるのか楽しみです。

 一方、及川は、いい感じでサービス、レシーブが効いているところですが、レシーブに関して言えば、レシーブ自体はいいレシーブではないので、必ずどこかで効かなくなるときがきます。それに備えて、別のレシーブを考えるべきでしょう。森薗に読まれることを前提に、違う何かを見つけないといけない。
 サービスに関しては、まだまだ余裕がある。逆横回転系サービスは出し始めたばかりだし、逆モーション気味の横回転系サービスも効いています。サービスに関してはまだ効きそうだなというのは感じますが、レシーブはバック側に長いのだけでは苦しくなると思います。


(まとめ=卓球レポート)

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