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【特別寄稿】 橋津文彦 戸上隼輔について(中編) 「思わず落涙した2020年全日本。衝撃を受けた2021年全日本」

 2022年全日本卓球選手権大会男子シングルスは戸上隼輔(明治大)が制した。それは、野田学園高校卓球部監督の橋津文彦氏にとって、2012年の吉村真晴(当時 野田学園高/現在 愛知ダイハツ)以来、二人目となる教え子が日本一に輝いた瞬間でもあった。
 戸上の才能を見いだし、その疾走感あふれるプレーの礎をともに築き上げてきた恩師は、愛弟子の勇姿に何を思ったのか。
 橋津氏が卓球レポートに寄せてくれた戸上への思いやエピソードの数々から、新王者誕生のサイドストーリーを知ってほしい。【前編はこちら


不覚にも落涙した2020年全日本男子シングルス準決勝での惜敗
 隼輔が高校3年生で迎えた2020年の全日本は、本人にとってもそうだと思いますが、私にとっても印象深く、忘れられない大会になりました。
 結果は、男子シングルス準決勝で張本選手(張本智和/木下グループ)に大激戦の末に敗れ、本当に悔しい思いをしました。その後、決勝では宇田選手(宇田幸矢/明治大)が張本選手に勝って初優勝を飾りました。
 宇田選手が優勝を決めた後、私はベンチに入っていた宇田選手のお父さんにお祝いの言葉をかけにいったのですが、その時の隼輔の悔しそうな表情は今でも忘れることができません。

 この2020年の全日本前は学校に許可をいただき、2カ月ほどかけて隼輔の代表選考会や代表合宿、Tリーグなどに帯同しました。普段は自主性を促すため、代表合宿や国際大会などはあまり帯同することはないのですが、この期間は合宿や大会のほか、渋谷浩さん(1999年全日本チャンピオン)にアドバイスを頂きながら長時間かけて行った隼輔の用具調整にまで帯同しました。
 そのため、野田学園の練習はコーチに任せて不在にすることが多く、いろいろなことを犠牲にしてしまいましたが、そのくらい隼輔の2020年の全日本に私自身も本気で、懸けていました。

 準決勝後のメディア取材で、隼輔は敗戦直後にもかかわらず、しっかりと受け答えをし、未来を見据えたコメントをしていました。少し恥ずかしい話ですが、その様子を見て私の方が涙を流してしまいました。この試合に私自身が感情移入しすぎていたことを反省もしましたが、今振り返ると、涙の意味はただただ純粋に悔しかったのだと思います。
 一般論として、大人はうれしい時に涙が出て、子供は悔しい時に涙が出る傾向があるそうですが、私自身、負けて悔しくて涙がこらえきれなかったのは高校生の頃以来ではないでしょうか。隼輔の惜敗に接し、涙を流すほど悔しがっている自分を懐かしく思うと同時に、「まだまだ欲望を持ってやっていけるぞ」と妙な自信がわいてくるのも感じました。
 ともあれ、本来であれば高校生で全日本ベスト4という結果は喜ぶべきことなのですが、大会を終えて大阪駅へ向かう車中では隼輔とほとんど会話を交わさず、重苦しい空気だったことを鮮明に覚えています。

2020年全日本男子シングルス準決勝で張本に惜敗した戸上

大きな衝撃を受けた2021年全日本での棄権
 昨年の2021年全日本は、隼輔にとって本当に不運としか言いようのない出来事だったと思います。緊急事態宣言下で開催された全日本でしたが、隼輔は試合直前に濃厚接触者の疑いで棄権を余儀なくされました。
 この時の全日本は隼輔と同じホテルに宿泊していましたが、野田学園の選手たちは早くに負けてしまい、スーパーシードだった隼輔の初戦が始まる日には山口に戻らなくてはなりませんでした。朝食会場で隼輔と一緒になり、肘タッチで激励してホテルを後にしましたが、その直後に隼輔が棄権になったという連絡を関係者からもらいました。
 私も移動中で、その時は隼輔とLINEでしかやり取りできませんでしたが、「こればかりは仕方がない。次に頑張るしかない」と告げるのが精いっぱいでした。本人の悔しさと絶望感は計り知れないものだったと思います。

 この全日本前に隼輔は野田学園へ練習しに来ていたのですが、10試合以上のゲーム練習を行い、三木隼が1ゲームを取っただけで、ほかは全て30のストレート勝ちと、これまで私が見たことのないほどの安定感を身に付けていました。前年の(2020年全日本での張本との準決勝の)惜敗もあり、この年の隼輔に期待する気持ちはとても大きなものがありました。
 それだけに、隼輔の棄権は私にとっても大きな衝撃でした。(後編に続く)

(まとめ=卓球レポート)

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