初めてラケットを握ったその日から、休むことなく成長を続けてきたかに見える松島輝空が、ロサンゼルス(6月26〜7月5日・アメリカ)で開催されたUSスマッシュ2026で最年少初優勝を果たした。
スマッシュはWTTツアーの中で最もレベルの高い大会であり、世界卓球のシングルス優勝と同等のランキングポイントが与えられる。この優勝は松島にとってどのような意味を持つのか?
卓球レポートでは全日本卓球2連覇後以来となる、およそ半年ぶりのインタビューを行った。インタビュー前編では、世界卓球2026ロンドンとUSスマッシュ(1回戦〜準決勝)の戦いについて振り返ってもらった。
世界卓球2026ロンドンを振り返って
--世界卓球ロンドン以降、初めてお話を聞くということで、まず世界卓球について簡単に振り返っていただきたいと思います。2024年の釜山大会に次いで2回目の団体戦でした。自身のプレーと、チームの銀メダルという結果について、どう思いますか?
松島輝空(以下、松島) まず個人としては、5勝5敗というのは正直、残念な結果です。中国以外には負けないと思っていたので、それ以外の選手に負けてしまって、本当に後悔の残る大会でした。
銀メダルについては、まずメダルを獲得できたのが初めてだったので、うれしかったです。ただ、金メダルを目指していたので、取れなかったことは残念だなという感じです。
--調子が上がらなかった原因は何だったと思いますか?
松島 やっぱり団体戦というところで、まだ慣れが足りないのと、コンディションが万全ではなかったというところですね。
--団体戦に苦手意識はありますか?
松島 そうですね。団体戦はあまり得意な方ではないので、少し苦手意識を持っていたというところはあります。
--松島選手にとって、団体戦とシングルスの違いはどこにありますか?
松島 団体戦になると「チームのみんなで勝つ」という感じですけど、個人戦だったら自分の好きなようにできるので、そこの違いですかね。
プレー内容も変わりますし、普段のシングルスでは実力を発揮できるところでも、ほぼできていなかったかなと思います。
--ロンドンで経験として得られたものや、新たに見つかった課題はありますか?
松島 まずは、団体戦ではまだまだ実力不足というか、まだ慣れがないということが一つの経験になりました。
技術面で言ったら、やっぱりレシーブ力がまだまだ足りないなと思ったので、そこを今、調整しているところです。
世界卓球後の練習環境
--USスマッシュは、国際大会としては世界卓球後、最初の大会でした。世界卓球が終わってから、どのように過ごしていましたか?
松島 卓球というオフシーズンがない競技で、こんなに試合がない期間はなかなかなかったので、しっかりと調整できたというのが、まず一つです。
もう一つは、拠点が変わって、新しい気持ちになって、逆にそれがいい方向に向いて、だんだんと自分の成長につながっている。それが二つ目です。
あとは、しっかりと自分が練習できる環境というか、練習相手がいて、コーチがついて、安定したチームができたので、そこは本当に結果につながったという感じです。
--具体的には、どのような環境で練習をしているのですか?
松島 味の素ナショナルトレーニングセンターで練習しているんですけど、練習相手も、張本選手(張本智和/トヨタ自動車)だったり戸上選手(戸上隼輔/井村屋グループ)だったり、そういう強い選手とできていることは実力につながっています。
それだけではなく、新しい環境になって、自分の気持ちの面で「さらに強くなろう」という意識が強くなったので、それが結果につながったと思います。
--技術面、戦術面で、集中的に強化したところはありますか?
松島 期間が結構あったので、レシーブだったり、ボールの質を上げる練習だったり、そういうところを自分なりに練習していました。
USスマッシュ序盤戦
--では、USスマッシュの試合を具体的に振り返っていただきたいと思います。1回戦はゲラシメンコ(カザフスタン)で直近のロンドンで負けた相手でした。どのような準備をして臨みましたか?
松島 まず、スマッシュは本当にレベルが高い試合で、1回戦、1回戦が大事だと思っていました。
ゲラシメンコ選手には直近で負けていたので、「二度は負けられない」という気持ちで臨みました。それが結果に表れたかなと思います。
--前回の敗因と今回の勝因は何だったと思いますか?
松島 前回は「団体戦だから負けた」と、本当にそういう捉え方をしていて、正直、今回は本当に負ける気がしていなかったので、最初から勝てる意識でやっていました。
--2回戦のO.アサール(エジプト)戦にはどのように臨みましたか?
松島 今まで1度も対戦したことがなくて、ベテランで粘り強い卓球だと思っていました。実際には、やりやすい印象で、あまり怖がらずにプレーできたと思います。
--3回戦がダン・チウ(ドイツ)。これまでも4勝2敗と勝ち越していて、苦手な相手ではなかったと思いますが、この試合ではどうでしたか?
松島 ダン選手は最近さらに強くなってきて、実力も上がってきていますし、今回の試合も、どのゲームを落としてもおかしくない試合で、強かったです。ただ、自分のプレーができれば勝てると思っていたので、それが発揮できたと思います。
※USスマッシュ 男子シングルス記録(抜粋)
▼男子シングルス決勝トーナメント1回戦
松島輝空(日本) 9,6,5 ゲラシメンコ(カザフスタン)
▼男子シングルス決勝トーナメント2回戦
松島輝空(日本) 2,8,4 O.アサール(エジプト)
▼男子シングルス決勝トーナメント3回戦
松島輝空(日本) 13,9,9 ダン・チウ(ドイツ)
王楚欽を破ったリンドが勝ち上がる
--次は、3回戦で王楚欽(中国)が負けてリンド(デンマーク)が来ましたね。そこはどのように受け止めていましたか?
松島 もちろん王楚欽選手が今、一番強くて、勝ち上がってくるとは思っていました。
ただ、王楚欽選手が負けるとしたらリンド選手だと思っていたので、想定内というか、30パーセントぐらいはリンド選手が勝つと思っていました。
王楚欽選手と対戦できたらそれはそれでよかったですけど、実際にはリンド選手が勝ってきて、リンド選手はもちろん実力のある選手なので、しっかりといつも通りの準備をしたということです。
--リンドが特に王楚欽に強いと考えている理由は何ですか?
松島 王楚欽選手が負けるとしたら、限られた選手だと思っています。最近で言ったら、自分とリンド選手はたぶん王楚欽選手が相当嫌がっている2人だと思います。だから、リンド選手と対戦する可能性もあると思っていたので、驚きはなかったですね。
--そのリンドにはストレートで快勝しました。
松島 リンド選手とは2、3回対戦していて、だいたい相手のことは分かっていましたし、あまり苦手意識はありません。いつも通りのプレーができれば、この試合も勝てるんじゃないかなという思いはありましたね。
--松島選手は相手の右利き、左利きによって、得意や苦手の意識はありますか?
松島 特にないですね。その選手によって、「ちょっとやりづらいな」というのはありますけど、左右でやりにくいというのは、あまり考えたことがないです。
--3回戦までに王楚欽をはじめ、林詩棟(中国)、林昀儒(中華台北)、張本智和とシード選手が次々に負けていきました。優勝のチャンスが増えたと感じましたか?
松島 もちろん優勝は目指していましたけど、考えすぎると、いいプレーができなくなるので、あまり自分の中では考えすぎず、一試合一試合と考えていました。
--今回はベンチが田添健汰さんでしたが、どんなコーチですか?
松島 今回が2回目でしたが、新しく田添健汰さんも自分の方に来てくださいました。昔から仲がいいので接しやすいですし、いろいろサポートもしてくださっているので、本当に心強かったです。
※USスマッシュ 男子シングルス記録(抜粋)
▼男子シングルス準々決勝
松島輝空(日本) 5,7,5,8 リンド(デンマーク)
TTRで失点後も「次のサービスで取ればいい」
--準決勝のF.ルブラン(フランス)戦の話も聞かせてください。内容的には、ラリーでは押していた一方で、スコア的には接戦になりました。プレー内容はいかがでしたか?
松島 フェリックス・ルブラン選手のブロックには、林詩棟選手やお兄ちゃんのA.ルブラン選手(フランス)だったり、いろいろな選手がいましたけど、絶対にフェリックス選手が来ると思っていました。自分の中ではフェリックス選手が絶対に来ると思っていたので、「ここまで上がったらフェリックスだろう」と準備してきました。
今はだいぶフェリックス選手に対する対策や感覚をつかめてきたので、五分五分だなと思っていました。それで前半からリードできたので、勝てたかなと思います。
--第1ゲームの5-5で、F.ルブランが松島選手のサービスのトスの角度についてTTR(Table Tennis Reviewの略。審判の判定に対して、選手が映像による再確認を要求できるビデオ判定システム。サービスのトスの高さや角度、ボールの視認性など、特定の判定を映像やボール追跡技術で確認することができる)を申請して、松島選手が失点しました。そこからやりにくさを感じたり、トスなどを意識しすぎてしまうということはありませんでしたか?
松島 準々決勝のリンド選手のときも一度TTRで取られましたが、取られても逆に自分の中では、いい時間のつくり方というか、その1点を取られても、次のサービスで取ればいいという考えだったので、TTRを取られたとしても、もう全然考えていないです。フェリックス選手のときも、取られてもまくれる(挽回できる)だろうという考えでやっていましたね。
--サービスも変えませんでしたね。そこは自信があったということですか?
松島 そうですね。何本取られても、サービスを変えるつもりはなかったです。
完璧にアウトかと言われたら、そうではないと思うので、何本取られてもいいつもりで、常に同じサービスを出しましたね。
--2対0とリードして、松島選手に流れがあったと思いますが、第3ゲームは9-5とリードしていたところから逆転されました。
松島 フェリックス選手とやるときは、どちらかというと、リードしている方が怖くて、逆に負けている方が、全然まくれる(逆転できる)可能性があると考えていました。
3ゲーム目は少しリードして、怖さがよぎってしまったところがあります。あとは、その前の試合まで全部4対0だったので、「すべて4対0で行きたい」という気持ちも試合中によぎってしまって、3ゲーム目は少し焦ったという感じはありましたね。
--F.ルブランと松島選手は両者前陣で激しく打ち合うタイプですが、何が勝負を分けたと思いますか?
松島 フェリックス選手も世界ランキングは1桁で、ずっと5位以内にいるので、すきがないというか、基本的に「ここが弱い」という弱点はないです。
ただ、打ち合いになったときに、自分が先手を取って、あとは粘り強く変化をつければ、ミスしてくれるだろうというところで少し崩せたかなと思います。
--この試合を通して、打ち合いでは松島選手が押していましたね。先手を取るために何を意識していましたか?
松島 コース取りだったり、あとは変化。そこを意識して、ずっと試合に対して準備していたので、フェリックス選手との試合では、それがプレーに現れたという形です。
--「変化」を、もう少し具体的に言うと?
松島 サービスを常に考えながら出したりとか、あとはラリーになったときの緩急だったりですね。
--最近の試合ではラリー中の緩急の幅も出てきたように感じます。
松島 あまり意識してやってはいないんですけど、いろいろなことをしないと、相手に返されるので、いかに相手を苦しめるかというのを考えながらプレーしていますね。
--第4ゲームも9-5から追い付かれる展開でしたが、焦りはありませんでしたか?
松島 嫌な感じはありましたが、10-10になるのを想定しながらプレーしていたので、それでしっかり、あのゲームを取れました。3ゲーム目は、まくれられると思っていなくて、焦ってしまいましたが、4ゲーム目はまくられる準備もしながら取りにいった。そこの違いでしたね。
--第5ゲームはF.ルブランのリードで進んで、7-10とゲームポイントを握られたところから松島選手が逆転勝利を決めました。
松島 7-10で負けてはいましたが、正直、全然まくれると思っていました。あのゲームは1点をどう取ろうという考えでした。7-9で、めちゃめちゃいいプレーをされましたが、そのあとに相手がポロッと簡単なミスをしてくれたので、「これ、(逆転の可能性が)あるんじゃないかな」という感じで、そのまま進みましたね。
--7-10でも逆転できるという、ある種の余裕があったのですね?
松島 それまでのプレーの感じもありますし、相手の心境も「少し焦っているんだろうな」というのを感じられたので、「これは、(逆転の可能性が)あるな」と思いましたね。
※USスマッシュ 男子シングルス記録(抜粋)
▼男子シングルス準決勝
松島輝空(日本) 10,7,-10,10,10 F.ルブラン(フランス)
相手の心理を読む
--相手の焦りなど、プレー中の相手のメンタルには注意を払っていますか?
松島 そうですね。基本的に自分は、サービスの返球だったり、相手の心理というか、心を読むのは結構得意な方だと思っています。「焦っているな」「これをやるんだろうな」というのは結構分かるので。そのときは自信がありました。
ヨーロッパの選手は結構分かりやすいので、自分は得意なのかなと思います。
--アジアの選手は読みにくいですか?
松島 ヨーロッパの選手に比べたら読みにくいですね。だから、負けるとしたらアジアかなと思いますね。
--相手の心理を読むというのは、意識して強化してきたところですか?
松島 これはもう経験で、常に試合をしながら考えていることなので、練習で意識していることではないです。
--相手に自分の心理を読ませないようにすることも意識していますか?
松島 そうですね。自分はあまり表に出ないので。もちろん、いらいらしたときは出ると思うけど、それでも次のことを考えています。あまり読ませないようにはしていますね。(後編に続く)
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(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)




