初めてラケットを握ったその日から、休むことなく成長を続けてきたかに見える松島輝空が、ロサンゼルス(6月26〜7月5日・アメリカ)で開催されたUSスマッシュ2026で最年少初優勝を果たした。
スマッシュはWTTツアーの中で最もレベルの高い大会であり、世界卓球のシングルス優勝と同等のランキングポイントが与えられる。この優勝は松島にとってどのような意味を持つのか?
卓球レポートでは全日本卓球2連覇後以来となる、およそ半年ぶりのインタビューを行った。インタビュー後編では、USスマッシュ2026の決勝を振り返るとともにロサンゼルス五輪への思いを語ってもらった。
(前編はこちら)
試合のテンポ
--準決勝でF.ルブラン(フランス)に勝って、決勝の対戦相手は準決勝でモーレゴード(スウェーデン)に勝って上がってきたシドレンコ(個人の中立選手)でした。初対戦でしたね。
松島 はい。シドレンコの卓球もあまり見たことがなくて、全く実力も知らなかったです。ただ、強い選手に勝ってきていて、実力がないとここまで来られないと思っていたので、フェリックス選手のときよりも気持ちの面での準備はしました。
--シドレンコの動画は見ましたか?
松島 試合前に結構見ました。初対戦自体は苦手ではないので、そこは自信があったて、モーレゴード選手の方が正直に言うと嫌でしたね。
--初対戦が苦手ではないというのは、松島選手の方がサービスが効くとか、相手の方がやりにくさを感じるということですか?
松島 そうですね。多分、相手の方がやりにくさを感じると思います。自分のテンポだったり、サービスだったり、アグレッシブなプレーだったり、そういうものにたぶん慣れていないと思うので、初対戦には自信がありますね。
--試合のテンポの速さは意識して、速くしているのですか?
松島 そうです。昔はあまり考えずにやっていたんですけど、最近は意識的にやっています。
自分はあのスピードでも、常にサービスをいろいろ考えながらやっているので、それは自分の強みでもあります。逆に、相手がそのテンポに慣れてきたら、ゆっくりにしたりとかいろいろ考えながらやっています。
フェリックス選手のときは、速くしたらたぶん相手がやりやすいので、たまにすごく間を置いたりしてやっていました。
--基本的には、速い方が自分のペースでやりやすいのですね?
松島 そうです。自分はあの速さでも考えられますが、それができる選手はなかなかいないと思うので、そこは自分の強みかなと思います。
--主に何を考えているのですか?
松島 サービスをどこに出すかということですね。
--レシーブのときは?
松島 レシーブのときは、相手のサービスによって変えるので、その場の判断ですね。ある程度、読んでいますが、読みと逆だったら、まず台に入れようという感じです。
ベンチで考えていること
--ゲーム間にベンチへ戻ったときも、コーチのアドバイスを聞きながらも、すごく考えているように見えます。あのときも頭をフル回転させているのですか?
松島 そうですね。基本的に、ベンチでガーッと言われても、あまり聞いていないので、どちらかというと、ベンチでは試合中に吠えてくれる人の方が、自分は実力を発揮できます。
ベンチに入ってくれる人には、たくさんアドバイスをしてくれるよりも、ベンチで声を出してくれる方が、自分は気持ちが乗ると言っています。
もちろん、アドバイスを聞いていることもありますけど、うろちょろしているときは、自分で何が駄目なのかを一回整理して、そのあとにコーチと話すという形です。
--「吠える」というのは、試合中のモチベーションを上げてほしいということですか?
松島 そうですね。ベンチが静かだと、自分の元気が出ないので。そこはベンチの仕事でもあると思うので、ベンチに入る人には「吠えて」と言っています。
--試合中のモチベーションに関しては、それほど気にしないと思っていたので意外でした。
松島 そうですね。意外と大事な試合になるほど気持ちは入るので、大事な試合のときは、ちゃんとベンチに声を出してもらうように頼んだりしています。
--シドレンコは実際に対戦してみて、どのような選手でしたか?
松島 本当に安定した卓球で、自分が思ったよりも強くて、バックハンドも結構威力がありますし、サービスも縦回転ですが本当に低い。フォアハンドが一番強いですけど、フォアとバックのバランスがよくて、どこからでも打てるのがシドレンコ選手の強みだなと思いました。
--そのシドレンコをどのように攻略しましたか?
松島 初対戦なので、やりながら、だいたい相手を読んで、そのまま最後まで行ったという形ですね。
※USスマッシュ 男子シングルス記録(抜粋)
▼男子シングルス決勝
松島輝空(日本) 5,-11,7,4,-5,7 シドレンコ(個人の中立選手)
スマッシュ初優勝と世界ランキング
--スマッシュ初優勝を決めた瞬間はどんな心境でしたか?
松島 やっぱりうれしかったです。出る以上は優勝を目指しているので、また一つ、壁を乗り越えたなという感じでしたね。
--スマッシュは世界卓球の個人戦優勝と同じランキングポイントですね。その点はいかがですか?
松島 準決勝ぐらいに行ったときに、日本人1番になることも分かっていたので、世界ランキングで日本人1位に行けたことはうれしかったです。
あとは、優勝して本当に2000ポイントがあって、やっぱりポイントが一番大事なので、そこでポイントを獲得できたことは、すごくうれしかったですね。
--日本人選手の中で一番というのも目指していましたか?
松島 やっぱり、早く取りたいなと思っていました。
もちろん張本選手(張本智和/トヨタ自動車)が強いですけど、ずっと二番手ではいたくなかったので、いつかエースの座を取りたいと思っていました。
まだエースの座を取ったとは言わないですけど、9年ぶりで日本人1番になったと思うので、そこはやっぱりうれしかったですね。(編集部注:世界ランキングの日本選手1位が変わったのは2018年7月の張本智和以来)
--それでも、「まだエースとは言えない」というのはなぜですか?
松島 捉え方によっては「エース」と言ってくれる人もたぶんいると思うんですけど、自分の中では、張本選手がエースとか、自分がエースとか、どちらでもよくて、結局、いかに実力と成績が安定しているかということが大事になってきます。
「エース、エース」と言われて、自分がプレッシャーに感じるのも嫌なので、どちらでもいいという感じですね。自分らしさをぶらさずに行きたいなと思っています。
--ランキングが日本人で1番になって、プレッシャーが増すということはありませんか?
松島 ないですね、自分は。いつもどおりプレーしていけたらいいかなと思っています。
ダブルスとオリンピック種目
--USスマッシュは男子ダブルスと混合ダブルスにも出場しました。結果的には振るいませんでしたが、手応えはいかがでしたか?
松島 ダブルスは、やっぱりあまり得意ではありません。オリンピック種目になったので、練習しないといけないのはもちろんですが、やっぱりシングルスを追究したい。シングルスに本気になってしまう自分がいます。
ダブルスにも集中していないとは言えないですけど、練習に費やす時間が短いので、そこが実力に出ているかなと思います。
--シングルスをダブルスよりも優先するのは仕方ないという面もあると思いますが。
松島 そういう思いも、心のどこかにはあると思います。
ただ、もちろんダブルスにも集中しています。まだまだ自分はダブルスが下手なので、パートナーに迷惑をかけることもあります。でも、やればやるほど、シングルスの実力があればできないことはないと思うので、そこは時間の問題かなと思います。
--ダブルスにも時間を費やしていきたいという思いもあるのですね?
松島 両方の気持ちがありますね。
シングルスもまだ満足していないので、シングルスに費やす時間もまだまだ必要です。ただ、ダブルスも必要な部分があるので、両方ですね。
--シングルス、ダブルスに関わらず、自分自身が、さらにここを磨いていきたいというところは?
松島 たくさんあります。自分でも分かっていて、ただ、それが少なくなったかなというのはあります。
特にレシーブが完璧にできれば、たぶん、すきはないと思うので、そこだけかなと思います。そこはまだ伸びしろがあると思っています。
今後の目標と、五輪金メダルでの引退宣言
--今年の全日本後のインタビューで「世界ランキング5位以内が目標」と言っていましたが、もう達成してしまいました。さらなる目標があれば聞かせてください。
松島 もちろん、全日本では水谷さん(水谷隼/木下グループ)の10回優勝とか、世界ランキングだったら1位とか、いろいろ目指すところはあります。
ただ、正直、その10回も1位も自分はあまりいらなくて、まず世界ランキング5位以内から落ちなければ、いい位置でオリンピックと世界卓球を迎えられます。そこで金メダルだけを取れればいいと思っているので、そこだけを目指しながら頑張っていきたいですね。
--オリンピックと世界卓球のシングルス優勝以外の記録は目指していない?
松島 あまり欲しくないですね、正直。
世界卓球で取れなくても、オリンピックだけで金メダルを取れれば、もうそれだけで引退したいと思っています。
--引退ですか!?
松島 オリンピックで金メダルを取ったときは、自分は引退します。
--本当ですか!? 2年後のオリンピックで、21歳で?
松島 はい。ロスで取れたら引退します。
--早く引退したいという願望があるのですか?
松島 やめたくはないんですけど、今はオリンピックの金メダルだけを目指して、卓球をやっているので、それ以上の結果は欲しくないです。
逆に、オリンピックで優勝して、そのまま卓球をやっていて、誰かに負けて何か言われるのも嫌なので、オリンピックで優勝したときは、素直にすっきりやめたいですね。
--オリンピック連覇は目指しませんか?
松島 いらないです。自分、連覇は好きじゃないんで、あまり。
--好きじゃない!? 全日本も連覇してますよね?
松島 オリンピックは、そのためだけにやっているので、1回取ってしまえばもういらないなという感じですね。
--少し気が早いかもしれませんが、指導には興味がありますか?
松島 あんまりないです。やっぱり、自分の苦しみを経験しているので、なかなかできないと思うんですよね。教えるならきょうだいですね。きょうだい以外には教えるつもりはないです。
今は現役でやっているので、深いことはあまり言えませんが、引退したとしても、強くなってほしいのはきょうだいなので、きょうだい以外には教えないと思いますね。
--今でもほかの選手や後輩を見ていて、ここをこうしたら強くなると思ったりはしますか?
松島 もちろんあります。これができれば強くなるとか、これをやれば成長するとか、見ていて思うことはたくさんあります。
--でも、言わない?
松島 絶対言わないです(笑)
理想の卓球を10としたら
--全日本後のインタビューで、「理想の卓球を10としたら、今どれくらいですか」という質問に「6くらいかな」と答えていました。今はいくつくらいですか?
松島 7くらいですね。全日本のときよりは強くなりました。全日本のときより卓球もうまくなっていますし、戦術の幅も増えたので、今は7くらいですかね。10に行くのは、まだ早いかなと思います。
--この半年で1つ上がったとすると、いいペースですね?
松島 そうですね。今、質の高い練習ができていて、だんだんと実力も上がっています。
もちろん、スマッシュで優勝できた自信も、成長につながっています。卓球選手は自信が本当に成長につながると言ってもおかしくないので、結果が出て、実力も上がったなと思います。
--世界ランキングは、ここからさらに上を目指しますか?
松島 もちろん、さらに上には行きたいですけど、まずは5位以内から落ちないように。5位以内をキープできるようにしたいです。
--ランキング以外の次の目標は?
松島 出る試合は、まず全部優勝できるように頑張りたいですね。
全日本2連覇からわずか半年で、スマッシュ最年少優勝という偉業を成し遂げたことも素晴らしいが、それ以上に、松島の確信に満ちた言葉とどこかに余裕を感じさせる表情は、彼が今も成長の登り坂を着実に進みつつあることを強く感じさせた。
今回のインタビューで特に印象深かったのは、ロサンゼルス五輪での男子シングルス金メダルという目標を、松島が確実に視野の中心に収めているということだ。少年時代から語ってきた「夢」に、松島は手を伸ばせば届くところにまで近づいてきた。
そして、引退を躊躇(ちゅうちょ)なく口にする松島には大いにたじろがされたが、その言葉を聞いた今、私たちは、輝かしいキャリアの頂点で潔くラケットを置く松島輝空の姿を目にする覚悟をしておく必要があるのかもしれない。
↓動画はこちら
(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)




