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世界卓球2021ヒューストン 
戸上隼輔が振り返る世界卓球

熱戦の記憶も冷めやらない世界卓球2021ヒューストンで活躍したバタフライ・アドバイザリースタッフに焦点を当てて話を聞く本シリーズ。
今回は、世界卓球初出場にして男子ダブルスで銅メダルを獲得し、男子シングルスで3回戦進出を果たした戸上隼輔(明治大学)に世界卓球を振り返ってもらった。

--初出場の世界卓球はいかがでしたか?

 男子シングルスと男子ダブルスに出場して、シングルスは3回戦、ダブルスは3位という結果でしたが、大会を終えた今は、楽しかったという印象です。
 世界選手権大会(以下、世界卓球)は、今まで出場した国際大会と比べて雰囲気が全然違いました。世界卓球には2019年のブダペスト大会にスパーリングパートナーとして帯同したことはありますが、選手という立場で会場に入るとすごい重圧を肌で感じました。これで真の日本代表になったと感じましたね。
 これまで世界ジュニア選手権大会にも日本代表として出場したことはありますが、サポートしてくださる方の数が、けた違いに多かったので、それも大きな違いでした。また、僕は選考合宿を勝ち抜いて日本代表になったので、出場できなかった選手たちの分のプレッシャーもありました。その方たちの期待も背負った分、重圧も大きくなりましたが、僕の場合は、それをよい方向でプレーに生かせたと思います。

--ドローの結果はどのように感じましたか?

 世界卓球という舞台で、3回戦で中国選手(王楚欽)と対戦できるっていうのは、正直言ってうれしかったですね。ドローが出るまでは、誰と対戦するか分からない中で、あれこれ雑念が膨らんで、練習にも集中しきれず、調子が出ない状態でしたが、ドローが出て、まずは3回戦まで勝ち上がるという明確な目標ができたことで、強い気持ちを持つことができました。

--1回戦のポランスキー(チェコ)戦はいかがでしたか?

 1度負けたことがある選手だったので、結構嫌でしたが、トーナメントの他のパートでは1回戦からもっと厳しい組み合わせのところもたくさんあって、それに比べたら自分は恵まれた方だと思うようにはしました。
 いざ試合が始まってみると相手も自分と同じような緊張や不安を抱えていることが表情から読み取れたので、そこからは強気でプレーができました。本来であればポランスキーはもっと強い選手なので、実力を出し切れていませんでしたね。

初戦で好プレーを見せた戸上。世界卓球ならではの緊張を対戦相手からも感じ取った

--2回戦のガルドシュ(オーストリア)戦はどのようにプレーしましたか?

 ガルドシュはサービスが多彩で下がらないでプレーする選手なので、やりづらいという印象はありましたが、こちらも前陣で速さで勝負しようというプランで臨みました。それがうまくいったと思います。
 試合は1ゲーム目が勝負だと思っていました。1ゲーム目が取れなければ、フルゲームで勝つしかない相手だと思っていたので、1ゲーム目が取れたのは大きかったですね。それと、1回戦と同様、ガルドシュも緊張しているのが伝わってきて、これほどのベテランでも緊張するのかと少し驚きました。
 1ゲーム目で苦しみながらも先行できて、2ゲーム目は先にゲームポイントを取っていましたが、追いつかれて、最後の1本がなかなか取れず、「やっぱりうまくいかないな」っていう感覚がありました。それで田㔟監督にタイムアウトを取ってもらって、結局15-13でこのゲームを取ることはできましたが、早めのタイムアウトだったので、接戦になるかもしれないと思うと怖かったですね。タイムアウトは自分だけじゃなくて相手も落ち着いて戦術を整理したり気持ちを切り替えたりできるので、攻めのタイムアウトでしたね。
 3ゲーム目もリードされましたが、中盤で切り替えることができて、そのまま最後まで落ち着いてプレーできました。

--3回戦の対戦相手は王楚欽でした。通用した部分もあったように見えましたが、手応えはいかがでしたか?

 別格でしたね。王楚欽は会場で練習を見ていて、「あいつにはかなわないな」と思っていた矢先、ドローが出たので、どうやって勝てばいいのかイメージがわきませんでした。実際に台を挟んで対峙したときも、王楚欽はとても大きく見えて、圧がすごかったんです。こっちが攻めるイメージが持てなかったんですね。
 でも、いざボールを受けてみたら意外にボールが取りやすかったんです。以前、樊振東と対戦したことがありますが、ドライブの質は樊振東の方が高かったと思います。王楚欽には実際にラリーでは勝てた場面もありました。サービス・レシーブ、台上プレーの差はもちろん、大きな差ではあったと思うんですが、そこをもうちょっと工夫すれば、もうちょっと競ることができたのかなと感じました。
 一番大きな差を感じたのは、レシーブ力ですね。王楚欽は終盤になればなるほどレシーブミスもしないし質も上がってくる。でも、僕は勝負どころでリスクを背負ってチキータしてミスみたいなプレーが出てしまいました。王楚欽のサービスに対しても怖さがあって、ロングサービス待ちにさせられてしまっていたので、フォア前のチキータに入るのが遅れて、ミスしたり質が落ちてしまうということもありました。サービス力だけでなく組み立てもうまかったですね。

 負けたのは実力ですが、やっぱり悔しかったですね。日本男子は僕しか残っていませんでしたし、そこで勝っていれば、日本男子の未来は明るいと思ってもらえるんじゃないかっていう気持ちはありました。だから、日本を背負う気持ちでプレーしましたが力不足でした。
 最近、卓球に対する気持ちや考え方、どこまで自分が卓球に対して本気なのか、オリンピックに出たいとは言っているけど、この本気度で本当にオリンピックに出られるのか、出るだけじゃなくて勝てるのかという問題に直面したんです。本気で世界で勝とうと思ってる選手が今の日本にどれだけいるのかって考えたときに、せめて張本の次に自分が来なくちゃいけないと思うようになって、そういう気持ちもあってアジア選手権も強気で挑めたし、世界卓球も日本を背負うという気持ちでプレーできたと思います。

王楚欽は「別格だった」と戸上。3回戦でストレート負けを喫した

--アジアチャンピオンとして臨んだダブルスでは銅メダルを獲得できましたが、この結果はどのように受け止めていますか?

 結果を見てみれば、優勝の可能性もあったかなと思うだけに悔しいですね。でも、僕らの実力は世界3位だと思いますし、韓国ペアよりも弱かったという現状は認めています。
 山場は3回戦の森薗政崇(BOBSON)/張本智和(木下グループ)との同士打ちでしたね。1ゲーム目を取られて、2ゲーム目も0-5とリードされて、「僕の世界選手権はここまでか」という思いも一瞬よぎりましたが、そこからは「楽しもう」というモードに切り替えることができました。
 相手は練習の時とは戦術をがらりと変えてきて、普段はチキータレシーブ主体の森薗さんが僕にチキータをさせないために、僕のフォア前のサイドを切るか切らないかくらいのストップだったり、サービスもサイドぎりぎりを狙ってきたり、宇田(宇田幸矢/明治大学)に対してもチキータ封じのために、ハーフロングと短いサービスを分けて使ってきました。こちらとしてはロング戦になれば勝てると思っていたので、相手はその前に仕留めようという作戦だったと思います。
 中盤からは、こちらはストップ対ストップにせずに、張本のバックとミドルに長く仕掛けるという戦術を取りました。強く打たれてもいいのでロング戦にしたのが功を奏したと思います。

--4回戦のピッチフォード/ドリンコール(イングランド)も強敵でした。

 事前に田㔟監督から、メダル決定戦だから相手も食い下がってくるだろうから、簡単には行かないと思って準備しておけ、思い通りにいかなくてもそれは仕方ないと受け止めろとアドバイスをいただいていたので、1ゲーム目10-7から追いつかれて、そのゲームは取れましたが、2ゲーム目は10-4から相手の8ポイント連取で逆転されて、田㔟さんの言ってたことはこのことかと思いました。心の準備ができていたおかげで「これが世界選手権か」と思えたのでよかったですね。
 戦術的には、ピッチフォードのYGサービスや台上がうまくて、レシーブもフリックを使うなど長いラリーに持ってくるので、試合を進めていくうちに相手のやろうとしていることを理解して、作戦を立てていくことができました。中盤からはラリーでも勝てるシーンが多くなってきたので、自分たちからロング戦に持ち込もうという話はしました。
 メダルが決まった時は、めちゃくちゃホッとしましたね。ダブルスの目標は最低でもメダルだったので、本当にホッとしました。

宇田/戸上は山場だったという3回戦の同士打ちを制したことで勢いに乗った

--準決勝の対戦相手はアジア選手権大会の決勝で破っている‪張禹珍‬/林鐘勳(韓国)でした。

 直近の試合で勝っていて、嫌な相手ではなかったんですが、アジア選手権大会では宇田のチキータレシーブが何発も決まっていたので、宇田に対して警戒心が強かったようで、世界卓球ではチキータ封じのためにハーフロングのサービスを多用してきました。そこでまず先手を取られました。
 さらに、‪張禹珍‬も林鐘勳もレシーブはほとんどストップしかしてきませんでした。僕らもストップ対ストップの展開に自信がないわけではありませんでしたが、韓国ペアの方がハーフロングのボールを的確に攻めてきました。その点では僕たちの方が甘かったですね。

 決勝も見ましたが、スウェーデンペアも韓国ペアもすごく台上プレーが丁寧で、ハーフロング処理に関してはスウェーデンペアが韓国ペアをさらに上回っていました。ラリーになってもスウェーデンペアの方が強かったし、ファルクの表ラバーが変化をつけていて、連係のよさもさすがだと思いました。中国ペア2組に勝ったスウェーデンペアは本当に強かったですね。カールソンの好調ぶりも印象的でした。
 3位という結果に満足しているわけではありませんが、ポジティブに捉えれば、初出場で格上の相手に勝って手に入れたものなので、自分たちを称えられると思います。

--初開催となったアメリカでの世界卓球の印象はいかがですか?

 時差15時間が厳しかったですね。時差ボケが1週間治らなくて、大会当日にやっと時間通りに眠れたくらいでした。世界選手権という大きな大会ということもあって、早く調整しないとという焦りもあって、余計に難しかったです。時差ボケ対策は普段はそんなに真剣にやらないんですが、今回は昼寝とかしたら終わると思って(笑)、絶対にベッドには横にならないで、いすにすわって何かするようにしていました。
 会場の雰囲気、観客の雰囲気はよかったですね。アメリカ在住の日本人の方や日本を応援してくれる外国人の方も結構いて、ホームみたいな感じでプレーができました。
 試合のあと、子どもたちが自分のところに駆け寄ってきてくれたのもうれしかったですね。僕を見て卓球を始めてくれるような子がいたら最高です。

 今年の全日本(全日本卓球2021)が棄権という形で終わってしまって「ついてないな」とは思っていましたが、それがあったおかげで、世界卓球に出ることができたと思っています。
 というのも、棄権になったせいで、そのあとのWTTにも出場できなくなってしまったんですが、そこ(WTTスターコンテンダー ドーハ)で張本が優勝したんですね。でも、自分は前シーズンのTリーグでその張本に2回勝っていて、自分が出ていたらどこまでいっていたのか、世界にどれだけ通用したのかを知りたいと本気で思ったんです。だからこそ、今、1大会1大会、1試合1試合を大切に戦うことができるようになったのだと思います。

試合後に戸上にサインを求める子どもたちが列をなした

(取材/まとめ=卓球レポート)

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