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荘智淵インタビュー「自分の卓球を追い求める心があれば必ず強くなれる」

長年に渡り中華台北のエースとして世界のトップで戦い続ける荘智淵。オーソドックスなプレースタイルながらも、基本技術のレベルの高さに支えられたその安定感の高いプレーは、多くのプレーヤーの参考にもなっていることだろう。
今回のインタビューでは、彼の卓球に対する取り組みにあらためて焦点を当て、その強さと息の長さの源泉に迫りたい。

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常に進化することを求める性格
それが卓球にも反映されている


「一番大きいのは卓球に対する興味です。それが私の卓球人生をここまで長くしてくれている大きな要因だと思います」
「真面目」と形容するのがもっとも相応しいだろうか。その真摯な姿勢は、卓球に対してだけでなく、生活態度や普段の立ち居振る舞いにも如実に表れている。「卓球に対する興味」、今でも世界のトップで活躍できている理由を尋ねると荘智淵は、静かだが力強い口調でそう答えた。そして、こう続けた。
「選手としてのメンタルは、おそらく私の性格と大きくリンクしていると思います。私は、常に進化すること、成長することを求める性格なので、それが自分の仕事である卓球にも反映されているのだと思います。
 2000年から2010年、2010年から2020年、この20年近くの間に卓球自体が大きく変わって、よく言えば大きく進化してきました。その間にいろいろな人からいろいろなものを学びながら、技術面で自分自身も大きく進化させてくることができました」


ワルドナーや王皓のプレーから
自分に必要なものを取り入れてきた


具体的には誰からどのようなことを学んできたのだろうか。
「かつてはビデオテープでしたが、今はインターネット上でいろいろな卓球選手の動画を見ることができます。
 昔はワルドナー(スウェーデン)のプレーをビデオで見て、彼の卓球に対する概念や試合の進め方を研究しました。王皓(中国)が強かったときは、彼の卓球を分析していいところを取り入れたりもしました。
 今の時代は、卓球のスピードが格段に上がっています。皆さんがよく知っている張本智和(JOCエリートアカデミー)のような卓球を動画サイトなどで見て、現代卓球に必要なものを分析して取り入れる。そういうことを日々続けています」
 ワルドナーや王皓といった同時代の頂点に立った選手のプレーから学ぼうとする姿勢は理解できるが、張本のような若い、自分の半分以下の年齢の選手からも学ぼうという荘智淵の貪欲さには舌を巻かざるを得ない。そして、それを隠そうともせずに公言する実直さは感動的ですらある。だが、そうした貪欲さこそが、彼が長きにわたって世界のトップでプレーし続けていられる一因となっているのだろう。


技術の進化についていくことは必要だが
フォアハンド中心のプレーも見直している


「技術で一番典型的なのはチキータですね。かつてはなかった技術が今では当たり前になった。それは大きな進化ですが、私はそれがなかった時代に卓球を始めたので、後からそれを取り入れなければなりませんでした。
 若い選手はどんどんチキータの質を向上させてきて、質の高いチキータを打てる選手が増えてきています。だから、私もどんどんブラッシュアップしていかなければならない。
 私の技術の中では、バックハンド中心のプレーを強化する必要があると感じてきましたが、最近では自分の強味に立ち返って、フォアハンドでのレシーブ、フォアハンドでの3球目攻撃を中心に練習を組み立てています」

そして、その理由についてはこう答えた。
「今はチキータレシーブから始まって、ラリーもバックハンドからの展開が主流かもしれませんが、私は両ハンド同じバランスでプレーしたいので、必要に応じてレシーブでも回り込んでフォアハンドで仕掛けるなど、どちらかに偏らないように、プレーの組み立てを考えています」
 もちろん、時代の流れについていくだけではない。その中で自分ならではの強味を生かしていくことを常に考え続けてきたからこそ、今の「荘智淵」があるのだ。


苦しんだプラスチックボールへの対応

 トップを走り続けてきたといっても、どんな選手にも好不調の波は少なからずある。そのプレーの安定性からも、比較的、大きな波のない選手だと思われている荘智淵だが、自分の中では難しさを感じてきた時期もあるようだ。昨年からの自身のプレーを振り返ってもらった。
「昨年はT2リーグに参戦して、調子は悪くなかったし、納得のいく出来だったと思っています。ただ、昨年の後半からは自分のプレーがプラスチックボールの影響を受けているという感は否めませんでした。私のみならず、この変化に苦しんでいる選手はかなりいると思います。
 世界卓球2018ハルムスタッドは、見ていただいた方はわかると思いますが、私にとっては苦しい戦いでした。ただ、その後の香港、中国、日本とワールドツアーで、徐々にボールへの対策が実ってきているという感触はあります。
 わかりやすくいうと、以前のボールはこちらがチキータしたり、強いボールを打った後は相手が守りに入るはずでしたが、今のボールは、スピードは上がりましたが、回転量が落ちたので、こちらが攻撃したボールに対して、相手がこちらのボールの勢いを利用して反撃してくる。
 そういう部分では、卓球の構造自体が変わってきているというのが1番大きな変化です。そのため、試合のときに打つボールの一球一球の質を高めていかなければならないのが一番難しいところだと感じています」



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スピードを保ったまま回転量を増やしたい
それが今の用具に求める条件


 両ハンドドライブを主軸にしたオーソドックスなプレースタイルの荘智淵だが、用具に対しては独特のこだわりを見せる面もある。度重なるルール変更にも対応してきたベテランは、具体的にどのような用具の変遷をたどってきたのだろうか。
「弾む接着剤が禁止になった後は、『SK7』に両面『テナジー05』でスタートしましたが、やはり、スピードを高めたかったので『ビスカリア』に両面とも『テナジー64』に変えました。この組み合わせを使いこなすことができるようになってからしばらくの間は、自分のプレースタイルにも合っていたため使い続けましたが、ラケットの素材を硬いもの(『T5000』)に変えてからまた『テナジー05』に戻しました。
 プラスチックボールになった当初は、ボールのスピードが上がって回転量が落ちたので、もともとスピーディーなプレーを得意としている私は、もっとスピードを伸ばしていこうと思っていましたが、ここ1~2年の間にそれだけはダメだとわかってきました。
 今は、スピードを保ったまま、より回転量を増やせる用具を求めています。プラスチックボールの時代に入ってからしばらくは『テナジー05』と『テナジー64』の間を行ったり来たりしましたが、現状ではおそらく『テナジー64』が自分のプレースタイルに合っているかと思っています。ラケットもそこまで硬くない『ティモボルALC』をベースにしたラケットに変更しました」


パリの男子ダブルス優勝を支えた
思い切った用具変更


 また、一部では有名な話だが、荘智淵は会場や対戦相手によって用具を使い分けているという。それにはダブルス世界チャンピオンに輝いたパリ大会での経験が背景にあった。
「確かに試合会場によってラケットを替えることがあります。中華台北では比較的狭い体育館で練習しますが、狭いとボールが走るように感じるので、『テナジー64』を中心に使っています。プロツアーではそこまで大きな会場でプレーすることはありませんが、世界卓球やオリンピックのような大会では大きな会場で試合が行われます。世界卓球2013パリでは会場が異様に大きかったのですが、終始ボールがネットに引っかかってしまう。そこで、もっと弧線を描くようなボールを打たなければならないと思って、途中で『テナジー64』から『テナジー05』に貼り替えました。それで、最終的に男子ダブルスで優勝することができたので、この成功体験が大きかったですね。
 それからは常に2種類のラバーを持って試合に出かけ、メインのラケットには『テナジー64』、スペアラケットには『テナジー05』を貼った状態で大きな大会に臨むようになりました。会場の大きさなどの影響で、急に『ボールが走らない』という感覚に陥ることがあるので、それに対する対策です」

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卓球を始めた頃から
憧れだったバタフライ


 バタフライ・アドバイザリースタッフの中でもボル(ドイツ)に次いで年長の荘智淵。バタフライとの付き合いも長いが、そのファーストコンタクトはさらに10数年前、卓球を始めた時期にまでさかのぼる。
「私が卓球を始めたときに、1番最初に知ったブランドがバタフライでした。中華台北の卓球選手が目指すナショナルチームの契約は当時から
バタフライだったので、目標とする先輩方が皆バタフライのウエアを着て日々プレーしている。そうした中で、自然とバタフライは憧れのブランドとして自分の中にインプットされてきました。
 子どもの頃の記憶でよく覚えているのが、稲妻マークのバタフライのシューズ(『ラジアルシリーズ』)がどうしても履きたかったけど手に入らない。ナショナルチームの着ていたウエアがどうしても着たかったけど手に入らない。そういうところからスタートして、バタフライのフラッグシップ商品を身にまとってインタビューを受けている今があるのですから、バタフライと契約してからのこの15年間はとても感慨深いものがあります。夢が叶って現実になったことに、言葉では言い表せない感情が湧いてきます」


自分の卓球を追い求める心があれば
必ず強くなることができる


 トップ選手としては体格に恵まれているわけではないが、教科書的な両ハンドドライブと俊敏なフットワークを軸に戦うプレースタイルは、多くのシェーク攻撃型のプレーヤーにとって参考になるに違いない。荘智淵本人はそのことをどのように考えているのだろうか?
「私も卓球場を持っていて、そこで教えている子どもが何10人といるのですが、彼らには他の選手のプレーを見ること、私だけでなく、今の時代なら馬龍や張本らトップ選手の卓球を見ることをよく勧めます。
 どのようなプレースタイルになるかということはもちろん大事ですが、強くなりたいという気持ちや探求心があれば、強い選手から技術や戦術を吸収できると思っているので、最終的には自然に自分の卓球のスタイルが確立すると思っています。
 抽象的な言い方かもしれませんが、常に心を静かに、自分の卓球というものを追い求める心があれば、必ず強くなることができると思います」


2020年で選手生活に区切り
引退後は指導者になりたい


最後に今後の目標について聞いてみた。
「もともとは2016年のリオオリンピックで選手としては区切りをつけて、指導者の道に進もうと自分の中では決めていました。しかし、リオの出来が悪く(男子団体はドイツに1回戦敗退、男子シングルスは3回戦でアルナに0対4)、辞めようにも悔しさが増して、これで選手生活を終えることを自分に許せなかったのです。それで2020年の東京オリンピックを目指そうと思い直しました。
 卓球選手としてはオリンピックが大きなターニングポイントになると思うので、今のまま行けば2020年で選手生活を終えることになるでしょう。ただ、必要以上に自分にプレッシャーをかけることはないと思っているので、悔しさが残らないよう、やり切れたと思えるようにこの2年間を過ごしたいと思っています。
 引退後は指導者になることを決めています。私の人生で、卓球から離れるということはないでしょう」


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荘智淵:https://www.butterfly.co.jp/players/detail/chuang-chih-yuan.html



(インタビュー=猪瀬健治、文=佐藤孝弘)
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