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ちょっと、それ貸して!!
第6回 吉田雅己 × 町飛鳥

トップ選手同士がお互いのラケットを交換して試打し、打球感や使いやすさなど、相手のラケットを評価し合う人気企画「ちょっと、それ貸して!」。第6回は青森山田中学校・高校でしのぎを削り、現在は岡山リベッツのチームメートでもある吉田雅己選手(FPC)と町飛鳥選手(鹿児島県体育協会)の同級生コンビです!



吉田雅己(FPC)
右シェーク攻撃型。円山クラブ(北海道)出身。青森山田中学校・高校、愛知工業大学、協和キリンを経て、現在は岡山リベッツでTリーガーとして活躍。鍛え抜かれた確かな技術をベースに、前陣での両ハンドプレーを得意とする。平成24年度インターハイ男子シングルス優勝。平成27年度全日本卓球選手権大会男子ダブルス優勝。世界卓球2015蘇州出場。

吉田雅己の使用用具(総重量=191g)
ブレード:バタフライ特注(ZLカーボンシェーク/インナーファイバー®仕様)
ZLカーボンを搭載したインナーファイバー®仕様の攻撃用シェークラケット

フォア面ラバー:テナジー05 (トクアツ)
回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー
バック面ラバー:テナジー05 (アツ)
回転主体のプレーに非常に高い性能を発揮するラバー


町飛鳥(鹿児島県体育協会) 右シェーク攻撃型。岸田クラブ(神奈川)出身。青森山田中学校・高校、明治大学、シチズン時計を経て、今シーズンから岡山リベッツでプレー。恵まれた体格とセンスフルな両ハンドで、ダイナミックなオールラウンドプレーを得意とする。平成25年度全日本卓球選手権大会男子シングルス2位。2014年ワールドツアー・グランドファイナル21歳以下男子シングルス優勝。

町飛鳥の使用用具(総重量=188g)
ブレード:インナーフォース レイヤー ALC
アリレート カーボンを搭載したインナーファイバー®仕様の攻撃用シェークラケット

フォア面ラバー:テナジー05ハード (トクアツ)
『テナジー05』の回転性能にさらなる威力を加えたラバー
バック面ラバー:ディグニクス05 (トクアツ)
回転による打球の威力をハイレベルで実現するラバー

【第一印象】
意外に使いやすかった町ラケット
吉田ラケットはバック面のラバーに特徴

吉田 町選手のラケット(以下、町ラケット)は『インナーフォース レイヤー ALC』にフォア面『テナジー05ハード』、バック面に『ディグニクス05』という組み合わせです。
 実際に打ってみたところ、普通に使いやすかったです。フォア面のラバーが『テナジー05ハード』で僕の『テナジー05』よりも硬いので、どうなるのかなと思いましたが、前陣でのプレーや台上プレーはやりやすかったです。


 吉田選手のラケット(以下、吉田ラケット)はZLカーボンのインナーファイバー®仕様ラケットにフォア面『テナジー05』トクアツ、バック面に『テナジー05』アツという組み合わせです。なかなか男子で「アツ」を使ってる選手っていないじゃないですか。高校生でもほとんど「トクアツ」ですよね。

吉田 そういう「飛べばいい」みたいな風潮はよくないよね(笑)

 「飛ばしてカンカン打てればいい」という風潮に対して、吉田選手は安定性を重視して、緊張した場面でも思い切れるように「アツ」にしているようですが、実際に打ってみるとやはり「飛ばないな」という印象でした(笑)。
 ただ、技術によっては使いやすいところもありました。

吉田 僕のはZLカーボン、町選手のはアリレート カーボンと、特殊素材は違いますがどちらもインナーファイバー®仕様なので、似た部分は感じました。
 フォア面はラバーの硬さが違うだけなので、それほど大きな違いは感じませんでしたが、バック面は僕の『テナジー05』アツと、町選手の『ディグニクス05』トクアツはかなり違いましたね。


 僕は特殊素材の違いを結構感じました。アリレート カーボンよりZLカーボンの方が直線的に飛ぶというか、球が速いと感じました。安定感は僕の使っているアリレート カーボンの方が高いですね。

【フォアハンドドライブ】
しっかり打たないと飛ばない町ラケット
引き合いで楽に打てる吉田ラケット

吉田 町ラケットは硬い分、しっかり打たないと飛んでいかないですね。でも、しっかり打ったら軟らかいラバーよりも重い球が打てるという印象はありました。打球感はちょっと硬いんですけど、結構やりやすいですね。
 引き合いは一番違いが出ましたね。町ラケット(テナジー05ハード)だと常に100の力で打たないとボールが浅くなってしまいます。肉体づくりをしっかりしてる筋力のある選手にはいいと思いますが、僕のようにそこまでパワーがない選手は、ちょっと扱いづらいと思いました。

 (連打したら)バテてましたよね(笑)。

吉田 そうですね(笑)。一球一球しっかり打たないといけないので疲れますね。 自分のストライクゾーンで打てたときはいいんですけど、詰まったボールの処理は難しいと思いました。

 下回転打ちとか、強く打ったときは僕のラケットの方がゴンと重いボールが出ると思いますが、台から下がってからのプレーは、吉田選手のラケットは僕のラケットよりもラバーが軟らかいし、素材も弾むので、飛距離が出ると感じました。6~7割の力でもある程度いいボールが打てるので、気持ちよく引き合いができます。吉田選手の『テナジー05』の方が自分の力を使わなくても飛んでいってくれるので、楽ができるという感じはしました。中陣で楽をしたい人は軟らかいラバーの方がいいかもしれません(笑)。

【カウンタードライブ】
威力はあるが難しい『テナジー05ハード』
やりやすさで『テナジー05』に軍配

吉田 カウンターも町選手のラケットは『テナジー05ハード』が硬い分、相手のボールを利用するというよりは自分の力でしっかり振らないと飛んでいかないので、打法は変えないといけないと思いました。しっかり打てたときは、威力がすごい出ると感じたので、練習を積んで慣れていけばもっといい球が打てるんじゃないかなと思います。
 打ち方は、薄く捉えるよりも、ラバーで当てにいくイメージですね。ボールを少し持った方が、いいボールが行ってくれます。なので、筋力もしっかり鍛えて、「ハード」に見合ったハード肉体づくりをしていかないと(笑)

 (吉田ラケットは)カウンターはめちゃめちゃやりやすかったです。『テナジー05』は『テナジー05ハード』に比べて軟らかくてボールが食い込むので、回転をかけたとき特有のキュンという音が鳴って飛んでいってくれて、やりやすかったです。


【バックハンドドライブ】
ロングタッチの『ディグニクス05』と
安定の『テナジー05』アツ

吉田 町ラケットの『ディグニクス05』はロングタッチ(吉田独特の表現。「球持ちがいい」の意)なので、回転がかかるという印象があります。ただ、ラケットは(町ラケットの)アリレート カーボンよりも(僕のラケットの)ZLカーボンの方がロングタッチという感覚がありました。

 「ロングタッチ」って言いたいだけでしょ?(笑)
吉田選手の『テナジー05』アツは、バックハンドの下回転打ちがやりやすかったです。思い切り打ってちょうどいいという感じで。トクアツだと、回転がかからずにミスすることがありますが、思い切って振れるアツの良さを感じました。インナーファイバー®仕様のZLカーボンのラケットとも合っていると思います。やりやすかったです。

吉田 安定はするけど、威力は落ちるよね。そこは認める(笑)

【バックハンドブロック】
アツは安定するが返球が浅くなる

吉田 (町ラケットは)ラバーがトクアツなので当てるだけで飛んでいって、やりやすかったですね。特殊素材のせいか、ラケットが新しいせいか、球離れは僕のラケットよりも早いと感じました。
 また、『ディグニクス05』の特徴だと思いますが、思った以上にボールが伸びたり変化したりしますね。

 バックハンドのブロックは吉田選手のラケットの強みでもあり弱みでもありますね。ブロックは安定はしますが、『テナジー05』だと素直なボールになりますし、さらに、アツなのでボールが止まって浅くなってしまうので、相手は打ちやすいかなと思います。ただ、安定はします。

吉田 卓球は安定だから。安定のスポーツだから。


【フィッシュ】
『ディグニクス05』の伸びは武器になる

 僕のラケットのフィッシュを受けてみましたが、『ディグニクス05』の伸びがすごかったですね。自分が攻めているはずなのに、若干押されましたから。

吉田 『ディグニクス05』はボールが上に出るので、ちょっとこすっただけで相手コートに入ってくれるし、伸びてもくれるので、フィッシュはやりやすかったです。
 ただ、ドライブでもそうですが、ちょっと油断したらオーバーミスしてしまうので、しっかり押さえないとだめですね。『テナジー』の方が素直に飛ぶので安定はしますが、質を求めるなら『ディグニクス』ですね。
 
 だから、究めたら『ディグニクス』の方がいい。

吉田 でも、扱いやすいのは『テナジー』のアツ!

【サービス】
「ハード」はショートサービスが出しやすい

吉田 そこまで大きな違いは感じませんでしたが、(町ラケットは)飛ばないので、思い切ってぶつ切りのサービスを出せますね。緊張した場面でも、台から出ないサービスが出しやすいと思います。
 ただ、ロングサービスはちょっと軟らかいラバーの方が出しやすいかなという印象です。


 サービスは違いが全然わからなかったです。

吉田 フィーリングないの?(笑) 硬いラバーだと球持ちが悪くてバウンドが高くなる。そこは全然違う。

 それ常識?

吉田 プロの中では常識(笑)


【レシーブ】
思い切ってチキータできるのが「アツ」の強み

吉田 町ラケットで一番やりやすいレシーブは(フォアハンドの)ストップですね。『テナジー05ハード』だとボールが飛んでいかないので、自分から切るストップがやりやすかったです。 
 ツッツキもやりやすいですね。自分で力を加えたら、ちょうどいいボールが入っていく。

 人のラケット、台にすごいぶつけてたよね、カツンカツン(笑)

吉田 思い切りいかないとこのラケットの味が出ないから(笑)
 フリックも、ラバーが硬いので、強フリックをしたらいいボールが入ってくれるところがいいです。

 吉田ラケットのレシーブは普通に使いやすかったという感じです。僕はそれほど『テナジー05ハード』と普通の『テナジー05』の違いは感じませんでした。ちょっと軟らかいというくらいで、やりにくさはないですね。
『テナジー05』アツのチキータは飛ばない分、抑えは利くのかなという気はしました。試合でも思い切っていけそうですね。慣れていないせいか、当てるだけで返したときなどに思ったよりも飛ばなくてネットミスをしてしまったので、そこを使いこなせたらアツにも未来があるかもしれませんね。

吉田 『ディグニクス05』のチキータは、回転がかかるので質の高いボールは行くけど、結構飛んでしまうので、緊張した場面だと難しいかなと思います。
 たとえば、右利きの逆横回転サービスに対してチキータレシーブすると相手のフォア側に飛んでいってしまうのですが、僕の『テナジー05』アツだとそれほど飛ばないので、ピッチフォードのYGサービスにも普通にチキータできたんですよ。(Tリーグ8月31日の試合

 ピッチフォードのYGには『テナジー05』のアツです!(笑)

吉田 マジでそれが勝因でしたよ。それでT.T彩たまから2点取りできて、アツの虜(とりこ)になりました(笑)
 試合会場は(照明などの関係で)普段の練習場よりも熱いことが多く、ラバーが弾むようになるので、いつもの感覚で打つとほぼオーバーミスしてしまうんですね。そういう時に飛ばないラバーだと調整しやすいというメリットもあります。


【このラケット、こんな人にお勧め】
町ラケはパワープレーヤー、もしくは前陣プレーヤーに
吉田ラケはフォア主戦、バック安定型にお勧め

吉田 『テナジー05ハード』はパワーがある選手だったら、下がっても使えると思いますが、まだ体ができあがっていないジュニアの選手は、前陣でしっかり打てる選手だったら向いていると思います。もし僕がこのラバーに変えるなら、もっと前でプレーするスタイルに変えなければならないと思いました。
『ディグニクス05』は、バックが得意ではない選手でも威力や変化が出しやすいので、慣れればいいボールが自然に出せるようになると思います。

 吉田選手のラケットは、女子選手や中高生でフォアハンド主体でプレーで、バックハンドはオーバーミスが多いなと感じている人は、このフォア面トクアツ、バック面アツという組み合わせを試してみるのもいいと思います。この配信を見て『アツに変えました』っていう人がいたらいいね。

吉田 うれしいね。流行らせたいね。

【用具のこだわり】
使い続けることの大切さ

吉田 僕はすぐに用具を変える方なのでそれほどこだわりはありませんが、結果がよければいい用具だと思うので、いい結果が残せたら、少しくらい不満があっても使い続けた方がいいと思います。
 僕の経験上、新しい用具に慣れるのには時間がかかるし、結果もなかなかついてこないので、ほどほどの成績が残せたらその用具を使い続けるのがいいかなと思っています。
 あと、繰り返しになりますが、上級者なら当然トクアツみたいな風潮は変えたいですね。両ハンドをガンガン振る、威力を求めるような選手は両面トクアツでいいと思いますが、前陣で安定性を求める選手などは、フォアは威力を求めてトクアツ、バックは安定を求めてアツなどもいいと思います。ラバーの種類と同じで、厚さもその人のプレーに合った厚さがあると思うので、そこも考えて用具選びをしてほしいですね。

 僕は1本のラケットをできるだけ長く使い続けたい派です。ラケットは年季が入っている方が使いやすいですね。このラケットはまだ使い始めて5カ月くらいですが、以前『水谷隼』の特注ラケットを使っていた時は8年くらい使い続けていました。長く使っていると安心感もあるし、自分の手に馴染んできます。それくらいまで使い込むのが、こだわりと言えばこだわりですね。


 攻撃型のトップ選手の場合、これまでラバーの厚さは「トクアツ」を選ぶことが当然とみなされてきた。そうした中で、今回の吉田雅己選手の使用用具はそうした「常識」の風穴を開けたと言えるだろう。
「安定性を向上させたい」というのは卓球選手にとって普遍的な課題だ。この課題に対する解決策の一つとして「ラバー(スポンジ)の厚さを変える」という方法は、用具選びの際の選択肢の一つになり得るのではないだろうか。

(取材=猪瀬健治 文=佐藤孝弘 動画=小松賢)

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