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吉村真晴インタビュー(後編)

 
 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に到った理由に迫る。
 本気でパリ五輪を目指すと決めた経緯を明かしてくれた前編に続き、インタビュー後編では吉村真晴(愛知ダイハツ)復活の土台になっている「チーム・マハル」と、これからについて尋ねた。
【前編はこちら】

 
−時吉コーチ(時吉佑一/Table Tennis GYM LaVIES)とはどのような経緯で出会ったのでしょうか。失礼ですが、学校などの履歴も共通点がないので、二人のマッチングは意外でした。


 みんなにもめっちゃ言われます(笑)。マネージャーのイオタさん(立石イオタ良二)が時吉さんと同級生で親交もあったので紹介してくれました。時吉さんのプレーはパワー系だし、自分が欲しい怖さという部分ではマッチしていると思って、1回話を聞いてみたくてランチをご一緒したんです。
 そうしたら、時吉さんが「真晴ってなんか丸くなったよね?怖さ感じないし、しかも台から結構下がるし」って踏み込んできて。いやいや待ってよ、しょっぱなからめっちゃ言うやん、まだコーチじゃないのにそんな言わないでよって(笑)
 そう思いつつも、ズバズバ言ってくれるのは自分としてはすごく良かったので、取りあえず一緒にやってみようと思いました。

−初対面での時吉コーチの踏み込みが刺さった感じでしょうか?

 そうですね。自分で感じていた部分と時吉さんが感じていた部分が一緒で、確かにそこはあるなと。時吉さんに指摘されたことは、自分の中でも物足りなかった部分だったので、全日本まで1カ月もない時期でしたが、とりあえず全日本までやってみますか、という感じで始まりました。
 でも、僕にとっては誰かから卓球を教えてもらうのは久しぶりだったので、純粋に楽しかったのと、自分だけでは気づかないところ、おろそかにしているところを踏み込んで指摘してくれるので、学びがたくさんありますね。
 やっぱり毎日の練習で、どこか甘えてなまけてしまう部分があったのですが、そこを繰り返し指摘されるので、そうした日々の積み重ねが自分の中にすり込まれてきています。試合の中でも意識できるようになってきたり、徐々に体と頭が一致し始めたりしている感覚はあるので、日々の練習にすごく楽しく取り組めていますね。

−時吉コーチの指導はどのような感じですか?

 厳しいわけではありませんが、試合が終わった後に「お前、気持ち全然入ってないよ」「ゲーム落とした原因はちゃんと分かってる?」など、きちんとズバズバ言ってくれます。
 時吉さんは、自分のコーチを担当するって決めてからすごく本気になってくれて、僕との距離を縮めようとしてくれているのが分かります。僕はゴルフが趣味なんですが、時吉さんもゴルフを始めてくれて一緒に回ったりしています。そうやって、卓球以外のところでも一緒の時間を過ごすようになって本当に自分に懸けてくれているというのをひしひしと感じることが多いので、とてもありがたいですね。だからこそ、頑張ろうという気持ちになれます。
 僕の年齢になってくると、年上も少なくなってくるし、自分が年下を引っ張っていく立場でもあるので、あまり自分に対してズバズバ言ってくれる人が少なくなってきているんですよ。これまでの卓球人生で、厳しく言ってくれることのありがたみを知っているので、言われない寂しさを感じていました。
 でも、久しぶりに思っていることを遠慮なく時吉さんにズバズバ言われるので、すごく刺激になっています。

−それは新鮮ですね。

 めちゃめちゃ新鮮ですよ。「こんなに言われる?そんな言わなくても良くね?分かってるってば。分かってるけどできないのよ!」って、自分でツッコミしているときもありますし(笑)

−最近の吉村選手は破壊力が戻ってきた印象ですが、時吉コーチの影響でしょうか?

 そうですね。時吉さんに言ってもらって、自分の中で忘れかけていた部分を思い出すことができました。これからも一緒に頑張っていこうと思っていますし、一緒にパリ五輪へ行けたらなと思っています。

時吉コーチ(左)が吉村復活のキーマン

 
−「チーム・マハル」には、メンタルトレーナーやマッサーの方もいると伺いました。


 メンタルトレーナーをお願いしているのは、辻秀一先生という方です。「スラムダンク勝利学」をはじめ、多数の著書がある先生で、いろいろなスポーツ選手のメンタルケアも受け持たれています。Tリーグの試合の際、琉球アスティーダの早川周作社長から辻先生を紹介していただき、先生の考え方が面白いというか、いちいち「確かにそうだよな!」とふに落ちることが多かったので、定期的にお話しさせていただいています。
 マッサーの阿部実智信さんは、イオタさんの紹介です。阿部さんは、サッカーの松井大輔さん(サッカー元日本代表)が海外リーグへ参戦する際の専属トレーナーを務めた経歴のある方です。これまで僕は、試合のときに自分でマッサーを連れていったことはありませんでした。今年の全日本からお願いしていますが、めちゃめちゃ助かっています。特に、全日本はけが明けで怖さがありましたが、最後まで戦えたのは阿部さんのサポートがとても大きかったです。
 また、弟の和弘(吉村和弘/TRAIL)もいつも一緒に練習しているので、チームの一員のような存在ですね。
 そして、このチームを支えていただいているのが、スポンサーのTRAILさんです。TRAILさんには金銭面や環境面等で大変お世話になっているので、この場を借りてお礼を述べさせてください。

--充実した「チーム・マハル」ですね。チームの存在は大きいですか?

 それはすごく感じています。アスリートにとって、チームがあることで責任感が生まれるし、目標や夢の共有があるからこそ、そこに向かって一緒に頑張れるので。
 チームは精神的な支えでもありますし、自分の逃げ道をなくす存在でもあります。卓球に真剣に向き合う環境づくりとしては、かなり大きいと実感しています。 

左から吉村和弘、吉村真晴、時吉コーチ、阿部マッサー

吉村のメンタルをサポートするのは多数の著書で知られる辻氏(左)

 
--現在のスケジュールは、おおよそどのような感じでしょうか?

 東京アートの練習場で午前中練習して、午後はトレーニングか、仕事関連で撮影や取材という日が多いですね。「何もしない」という日はほぼありません。毎日、練習か仕事か何かしらしています。

--精力的に活動されている中ではありますが、アジア競技大会が延期になってしまいました。

 それは、残念なところではあります。
 ただ、618日からスロベニアへ行くのが決まっています。久しぶりにナショナルチーム派遣で国際大会に出場するので、あまり先を見ずに今はそこに照準を合わせています。約二年半ぶりの国際大会なので、しっかり結果が出せるように心と体を整えて臨みたいと思います。

--メンタルトレーナーのサポートももちろん大きいと思いますが、吉村選手流の「心の整え術」みたいなものがあれば教えてください。

 いやいや、分からないです(笑)。スロベニアの国際大会も久しぶりだから正直めちゃめちゃ緊張しています。
 でも、オンとオフをしっかりすることが大切かなって思いますね。
 以前、卓球レポートのインタビューで話した記憶があるのですが、僕には卓球をやりすぎて卓球が嫌いになってしまった時期がありました。だから、常に卓球が楽しいと思えるよう普段の練習は半日くらいに抑えて、「ちょっと物足りないけど、明日もやりたいからこのくらいにしておこう」という感じで、やりきらないようにしています。寸止めみたいな感じでしょうか(笑)。もう半日は取材や撮影などの仕事を入れ、オフの日は友人と会ったり、好きなゴルフをしたりして自分の時間をしっかりつくるようにしています。
 そうやって、自分を追い込みすぎずに卓球と向き合うのが、僕には1番合っているのかなと思います。

−技術的にはいかがですか?課題や、こんな選手になりたいなどイメージがあれば教えてください。

 こういう選手を目指そうというのは特にありませんが、より前陣でパワーのあるボールを打つことが今の課題です。打ち始めると、どうしても台から距離を取ってしまうのですが、それだといくら強いボールを打ってもなかなか決まりません。
 そのため、台の近くでもうワンテンポ早いタイミングで強いボールを打つことを目指しています。そうすれば、自分の怖さが相手に伝わるし、強く打てなくてつないだときの効果も高まるので、そこはすごく考えています。
 また、バックハンドでのストレート攻撃ももっと強化していきたい部分です。

−吉村選手は身長が高く、リーチも長いので、前陣でのプレーは難しい部分もあると思いますが?

 確かに難しいですが、今のプレー位置では日本の選手に対して押せたとしても、海外、特にヨーロッパの選手には厳しい。もうワンテンポ早いところで打つことによって相手にプレッシャーをかけられるし、チャンスが生まれてきます。
 今は、先を見据えたプレースタイルの変革を行っていく必要があると思って、改善に取り組んでいます。

 −目標はまだ先にありそうですね。

 そうですね。国際大会に出るのも久しぶりなので、そこであらためて自分で感じて、自分がやってきたことや、この二年半近くため込んできた思いも含めて、しっかりと戦いたいなと思っています。

もっと前でプレーすることが課題だという吉村


−技術的なことと関連して、ラケットも変えたと伺いました。

 昨年の12月にアウターのCNFからインナーファイバー®仕様のZLカーボンに変えました。ラバーは変わらず、両面ともディグニクス05です。
 CNFは使っていて感覚がとても良いのですが、時吉さんから「球がめちゃめちゃきれいだね。自分も良いけど、相手もやりやすいよね」と指摘されて、ZLカーボンに変えました。
 ZLカーボン(インナーファイバー®仕様)は以前に使ったことがありますが、球持ちが良すぎて自分には合わなかったんです。それで3年くらい家で眠らせていたのですが、時吉さんの指摘を受けて試しに使ってみたら、ディグニクス05をずっと使っていてラバーの性能に慣れたせいか、めっちゃ良く感じて。軌道の高さもちゃんと出て、その分、相手がやりにくそうにしてくれたので、それで使うことに決めました。

−なるほど。軌道が高いと、どう良いのですか?

 打って気持ちがいいのはCNFですが、早いラリーになったときに軌道がちょっと直線的なんです。なので、相手も合わせやすい。一方、ZLカーボン(インナーファイバー®仕様)は、軌道がちょっと高くなる分、相手がちゃんと打たないといけなかったり、リズムを少し狂わせたりできたので、そのあたりが思い切ってラケットを変えるヒントになりました。
 自分のプレーの調子もいいですし、現在の用具にはとても満足しています。

自分のやりやすさよりも相手のやりにくさを優先してラケットを変えたという吉村

--環境やプレー、用具など、いろいろな面で充実しているようですね。いま一度、目標をお聞かせください。
 
 やはり、2024年のパリオリンピックに出て、シングルスでメダルを取りたいです。そして、団体戦では日本チームの金メダル獲得に貢献したい。
 こう見えて、あまり大きなことを言うのは好きじゃないんですが、でも言葉にして自分にプレッシャーをかけて、その場に立てるよう自分を追い込んで、しっかりと結果を残したいと思っています。

--最後にファンへ向けてメッセージをお願いします。これから、どんな吉村真晴を見せていきたいですか?

 僕は、「自分が楽しければ周りも楽しいだろう」というおめでたい感覚です(笑)。なので、あまり深く考えすぎずに自分のやりたいことをやって自分の心を豊かにして、それで周りにいる人たちも一緒に豊かになればと思ってこれからも活動していきたいですね。卓球選手としての吉村もそうですし、YouTubeやテレビに出ている吉村もそうですが、自分を見て少しでも元気になってもらえるような、そういう人間になりたいと思っています。
「もう一度、卓球で本気になる」と決めたので、今までより真剣に卓球に向き合う機会が増えます。そこを皆さんにしっかり見届けてもらいながら、たまにメディア等に出る違った吉村真晴も楽しんでいただけたらと思います。

 −今後のご活躍を楽しみにしています。本日は長い時間ありがとうございました。

 ありがとうございました!

久しぶりのインタビューだったが、周りをも照らすような明るさは健在だった

 久しぶりに吉村のインタビューを行ったが、屈託がなくて明るく、我々をも楽しませようとするサービス精神は相変わらずだった。トップからいったん退き、再びトップを目指す筋立ては、どうしてもドラマチックな要素を求めがちだが、「自分が楽しければ周りも楽しい」という吉村に悲壮感は全くない。
 チーム・マハルという強力なサポーターを得て、再び本気になった吉村の復活劇はどんなエンディングを迎えるのか。望んだ結果が簡単に得られるほど世界は甘くないが、吉村と彼を支えるチーム・マハルの挑戦が卓球ファンの心を楽しく豊かにしてくることだけは間違いないだろう。

(まとめ=卓球レポート)

吉村真晴インタビュー(前編)「もう一度本気でパリ五輪を目指す、と覚悟を決めた」

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