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笠原弘光インタビュー(前編)

 アスリートには、それぞれの競技人生の中で大きな選択を迫られるターニングポイントがたびたび訪れる。そのときの判断がその後の競技人生を大きく変えることも少なくないだろう。進学か、就職か。国内か、海外か。アマチュアか、プロフェッショナルか。引退か、続行か......。
 このインタビューシリーズでは、今、転機を迎えている選手たちに焦点を当て、なぜその道を選んだのか、その決意に至った理由に迫る。
 今回は、笠原弘光にインタビューを行った。
 ベテランと呼ばれるのにふさわしい経験を積んできた笠原は、今季、シチズン時計を離れ、オーストリアリーグに挑戦する。この転機が笠原の残りの競技人生をどう左右するのか。新たなチャレンジを前にする笠原が胸中を語る。

--今季はオーストリアリーグのSPGフェルバマイヤ・ヴェルスでプレーすると聞きましたが、このチームでプレーすることになった決め手は何ですか?

 今年の3月まででシチズン時計を辞めることは決まっていましたが、まだ次のことは何も考えていなかった3月頃に、オーストリアかフランスのリーグでプレーしないかというオファーが急に来たんです。
 プレーするところを探したいとは思っていたので、試合がたくさんできるというオーストリアの方を選びました。それで、チームと契約したのが4月中旬です。試合が始まるのは9月なので、それまでは試合はありません。

--9月からはどのようなスケジュールになるのですか?

 ずっと向こうに滞在するのではなく、試合のある23週間〜1カ月の短い滞在を繰り返すことになると思います。オーストリアの国内リーグと、ヨーロッパチャンピオンズリーグにも出場する予定です。

--それまではどのような予定ですか?

 練習はいろいろなところに行かせていただいています。今週は東京アートで練習していますが、早稲田大学、明治大学の練習にも参加させてもらったりしています。まだ、拠点がないので、いろいろなところに受け入れていただいて感謝しています。

9月からは初のオーストリアリーグに挑戦する


--海外リーグへの挑戦を控えて、これからの課題はありますか?

 全日本(全日本卓球2022)でも感じましたが、若い選手と対戦すると、彼らのプレーに慣れていないと難しいので、ヨーロッパでいろいろなタイプの選手とプレーしたいという思いはありますね。
 最近はいろいろなところで練習させてもらっていますが、東京アートで練習した時、木造(木造勇人)なんかはプレーの質が僕らの年代の選手と違っていて、すごく練習になりました。若い世代の選手と対戦した時に、どういうプレーが効くのか、どうやったら崩せるのかとか、そういうことを考えていかないと勝つのが難しくなってきましたね。

--若い世代の選手のプレーは具体的にはどういうところが違うと感じますか?

 卓球が速いだけではなく、セオリーも違いますね。例えば、一般的にはフォア前とバックロングへの2つのサービスを主軸に組み立てたりしますが、その2つに対してはすごくいいレシーブがくるけど、それ以外の、例えばバック前に出すとあまりいいレシーブがこないというようなことがあって、今までの常識が通用しないと思うところがありますね。
 同様に、バック側に打ったドライブに対してはすごいバックハンドカウンターを打ってくるのに、フォア側のボールに対してはそれほどいい返球がこないとか、そういうこともあります。そういう相手に対して、いつも通りにバックにボールを集めるようなプレーをしてしまうと、苦しい展開になります。
  バックハンドがうまい選手も多くて、僕らのセオリー通りにバック対バックから入ってしまうと厳しい展開になることが多いです。スピード勝負では分が悪いので、バック面のラバーをディグニクス09cに変えて、回転量や変化で崩すように心掛けています。
 あとはロングサービスを多用する選手が多いですね。ボールが硬くなったのも一因だと思いますが、短いサービスに対していろいろなレシーブをされるよりは、ロングサービスの方がレシーブでも単純なボールが返ってきやすいので、そこから両ハンドでガンガン打ってくるスタイルの選手が多い気がします。下回転系のサービスから始めて、ストップさせてみたいな展開は少ないですね。
 一方で、フォアハンドで下回転のボールに対して、ちゃんと強く打てる選手は少ないですね。台から出たストップやツッツキを一発で決められるような選手は、若手では宇田(宇田幸矢/明治大学)や戸上(戸上隼輔/明治大学)くらいじゃないですかね。

--世界に目を向けた時に、笠原選手が勝っていく上で何が必要だと思いますか?

 世界的にプレーが変わってきているところはあると思います。世界で勝つには、攻撃するボールの1球目の質というか鋭さがめちゃくちゃ大事なんじゃないかと思っています。オフチャロフ(ドイツ)、カルデラーノ(ブラジル)、ヨルジッチ(スロベニア)とか、ヨーロッパでも勝っている選手は1球目の威力がありますよね。ちょっと系統は違いますが、アルナ(ナイジェリア)もそうですね。韓国の選手も1発目の威力はすごい。
 僕にはその1球目の怖さが足りなくて、いいプレーができないことがあるので、そこは強化したいと思っています。

これからは「攻撃の1球目」が勝敗を分けるポイントになると笠原


--ラリー戦での安定感が持ち味の笠原選手とはイメージが変わりますね。

 そうですね。今までの僕のプレースタイルとは違いますが、そうしないと勝てないですし、選手としての寿命がどんどん縮まっていくと思います。自分のこだわりよりも、変化についていくことの方が大事ですね。
 あとは、日本人同士だと球威があまりないせいか、相手に先に打たせてからのカウンタープレーが主流になっていますが、先に攻めるボールがないと、やっぱり海外では通用しません。

--最初の攻撃の威力を高めるために心掛けていることはありますか?

 練習の時に、攻撃の1本目を強く打つようにしています。下回転打ちでも、打球点を下げて持ち上げるんじゃなくて、1発で決めるつもりで強く打ちます。ミスは増えるかもしれませんが、そういうボールを入れていかないと勝つのは厳しいので、練習中から意識していますね。

 後編では、奮起に至った経緯と盟友・水谷隼(木下グループ)について詳しく聞いた。

(まとめ=卓球レポート)

笠原弘光インタビュー(後編)「負けても悔しさが湧いてこないような状態で辞めたくなかった」

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