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【特別寄稿】橋津文彦
 「2020年にできたことと、これから」(中編)

 昨年6月、野田学園高校卓球部の橋津文彦監督は「2020年の生徒たちへ(前編中編後編)」というタイトルで、コロナ禍における苦悩や向き合い方について卓球レポートに寄せてくれた。
 あれから1年がたち、高校卓球界のトップランナーはどんな思いで日々を過ごし、これからどう進もうとしているのか。
 橋津監督が今の心境をつづった特別寄稿を3回に分けて掲載する。
前編はこちら

新鋭の才能が思い出させてくれた大切なこと

 昨年の4月から、岩井田駿斗(HZF)の指導も行っています。知っている方もいるかと思いますが、駿斗は全日本卓球選手権大会のカブ(小学4年生以下)とバンビ(小学2年生以下)で優勝経験のある将来有望な選手です。ちなみに、駿斗の所属の「HZF」とは、誰が言い出したのか定かではありませんが、「橋津ファミリー」の略です。これから駿斗の夢を共有し、共に挑戦していきたいという私の思いを込めて、彼の所属をHZFという名前にしました。
 話がそれましたが、2021年の全日本(全日本卓球選手権大会)が終わってすぐの1月末に、福岡県の北九州市で東アジアホープス選手権大会の日本代表選考会が開催されました。昨年の中高生は大会が本当に少なかったのですが、それ以上に小学生は開催される大会が少なかったように感じています。その鬱憤(うっぷん)からか、駿斗は「選考会を必ず全勝で通過する」と意気込んでいました。全日本が終わるまでは野田学園の生徒たちの健康管理などもあり、駿斗まで十分な目配りができていませんでしたが、彼の前向きさに突き動かされ、規定練習後の居残り練習に毎日付き合い、久しぶりに多球練習もかなりの数を送球しました。

 駿斗の居残り練習に付き合う課程で、私は彼の恐るべき才能に気づかされました。それは、「長時間の練習を高い集中力で行える」ことです。小学生とは思えないほどストイックに練習に打ち込む駿斗は、まさに「練習の虫」。私は、20年以上の指導歴の間にたくさんの生徒を見てきましたが、それらの中でも「練習に打ち込める才能」という点では、小学生であるにもかかわらず駿斗がナンバーワンです。その才能に触れてしまった以上、駿斗が大きく成長できるようしっかりサポートしていく責任を強く感じています。
 東アジアホープス選手権大会の選考会は、本人の宣言通り、駿斗が全勝で代表権を獲得しました。私も選考会に帯同しましたが、そこでの駿斗のひたむきなプレーや、それまでの練習で彼が自分を追い込む姿を目の当たりにしたことは、私にとってとても有意義なものでした。
 コロナ禍の私は、コロナを恐れたり、コロナを理由にしたりして、知らず知らずのうちにいろいろなことに臆病になっていました。しかし、「そうではない。もっと前向きにチャレンジするんだ」という大切なことを、駿斗のひたむきさが思い出させてくれた気がします。

橋津監督がほれ込む才能を持つ岩井田駿斗。写真は2019年全日本カブ男子優勝時

大きなエネルギーをくれたTリーグファイナル

 2月に入ると琉球アスティーダ対木下マイスター東京のTリーグ男子ファイナルが東京で開催されました。
 多くのOBが琉球アスティーダに所属しており、彼らにはメモリアルチャレンジマッチでお世話になったことも重なって、シーズン中は琉球アスティーダの試合を映像配信で観戦するのが本当に楽しみでした。琉球アスティーダに所属しているOBたちには、「状況を見て必ず応援に行くから」と連絡していましたが、他県へ移動しにくい雰囲気が続いていて、なかなか会場へ足を運ぶことができませんでした。しかし、琉球アスティーダがファイナル進出を決め、選手(OB)たちとLINEで連絡を取り合ううち、「応援に行くしかない」と腹を決めました。そして、職場(野田学園高)に年次休暇を届け、OBを応援するため、Tリーグファイナルが行われるアリーナ立川立飛へ向かいました。

 試合は、真晴(吉村真晴/愛知ダイハツ)、和弘(吉村和弘/現・岡山リベッツ)、隼輔(戸上隼輔/明治大)が大活躍し、琉球アスティーダが初のTリーグ王者になりました。3番で真晴が勝って優勝した瞬間のうれしさは、自分のチームのことのようでした。緊急事態宣言下で不要不急の外出を控えなければいけない時期でしたが、Tリーグファイナルの現地での応援は、私にとって不要不急の行動ではなかったと思っています。
 いつも思うことですが、OBの頑張りは、現役の生徒や私に大きな力を与えてくれます。特に、コロナ禍の2020年は彼らからたくさんのエネルギーをもらいました。この場を借りて、あらためて感謝を述べたいと思います。

Tリーグファイナルで琉球アスティーダの勝利を決めた野田学園OBの吉村真晴。現地で観戦した橋津監督は教え子の勇姿を目に焼き付けた

「納得いく結果を残そう」。決心して臨んだ春の高校選抜

 3月に入ると、春の高校選抜(全国高等学校選抜卓球大会)を間近に控えた生徒たちのために、OBたちが指導に来てくれました。OBたちは二週間前から体温チェックを行い、事前に抗原検査を受けた上で、野田学園で一緒に合宿を行ってくれました。
 野田学園のOBではありませんが、私の仙台育英高時代の教え子である岸川聖也(ファースト)も自ら志願して生徒たちの指導に当たってくれました。これまで、野田学園には本当にたくさんの選手や指導者にお越しいただいていますが、その中でも、聖也はやはり別格です。一つ一つの技術の質が極めて高く、彼のプレーをずっと見ていたいと思うほど芸術的です。アドバイスも的確で、聖也から指摘を受けた生徒たちはみるみる技術が上達していきます。
 私は20年以上指導者を続けていますが、聖也の端的なアドバイスで上達する生徒たちを見て、悔しいですが、日本の最前線で世界と戦ってきた選手の指導にはかなわない部分があるなと感じました。

 聖也を筆頭としたOBたちのサポートを受けながら、高校選抜では絶対に納得のいく結果を残そうと生徒たちも私も決心し、「これだけやって負けたのなら仕方がない」と腹をくくれるところまで追い込んで高校選抜に臨みました。
 今年の全日本は惨敗しましたが、その大きな理由は、「コロナを必要以上に恐れるあまり、体調管理にばかり意識が行きすぎてしまった」ことです。この苦い経験を踏まえ、高校選抜に向けてはポジティブな発想で取り組もうとミーティングを行い、チャレンジしてきました。生徒たちにかなりハードな練習を課しましたが、みな高い意識で練習に取り組むだけでなく、日常生活も過ごし、高校選抜の大会当日まで1人も体調を崩すことなく試合に臨むことができました。
 高校選抜では初戦から厳しい試合が続きましたが、決勝まで勝ち上がることができました。決勝では愛工大名電に敗れましたが、現時点で私たちにできる卓球は精いっぱいできたと思っています。
 8月には富山でインターハイ(全国高等学校卓球選手権大会)が行われます。それまでにもっともっと実力をつけて、連覇中の愛工大名電に挑戦します。(後編へ続く)

高校選抜2位の野田学園。「今できることはやれた」と橋津監督

(まとめ=卓球レポート)

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