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おかえり卓球 〜渋谷浩と振り返る卓球の今むかし〜 
①渋谷浩が1999年全日本決勝を振り返る

「テレビで全日本卓球や世界卓球の放映を見て」「子どもが部活で始めて」「温泉旅館で久しぶりにラケットを手に取って」。
 そんなふとしたきっかけで、あなたの中に眠っていた「卓球」が目を覚ますその時を、私たちはずっと待っていました。
「おかえり卓球」は、再び卓球の世界に戻ってきてくれた皆さんをお迎えするための、ささやかな場所です。
 まずは、時計の針を少し巻き戻してみませんか。
「あの頃」、私たちのヒーローのひとり、渋谷浩が念願の初優勝を果たした1999年、全日本選手権大会決勝を振り返るところから、お付き合いください。



1999年12月26日東京武道館
平成11年度全日本選手権大会
男子シングルス決勝 渋谷浩 対 偉関晴光

圧倒的不利な状況で選んだ戦術

 当時の映像を見返して、開口一番「若い!躍動感があって運動量が半端ない」と言った渋谷。だが、次第にそのまなざしにはあの時の真剣さが光を帯びてきた。
「偉関さん(偉関晴光)とは練習も常によくやっていたし、ダブルスも組んだことがあるし、遠征や合宿なんかで部屋が同じこともしょっちゅうでした。対戦成績は1勝20敗くらいですね。この決勝も圧倒的不利でした」

 そうした戦いに、渋谷はどのような戦術で臨んだのだろうか。
「細かいところでいうと、偉関さんに効率よく攻めさせないことを心掛けました。偉関さんの攻撃はタイミングが早いので、ボールをいろいろなところに散らさないことですね。厳しいコースに持っていくと、余計に厳しいコースで打ち抜かれたりするので、コース取りにも注意しました。
 でも、それは相手も分かっているし、いつもと同じ戦術でした。具体的には、偉関さんのフォア側からの攻撃は厳しいので、あまりフォア側に不用意にボールを集めすぎない、特に、レシーブのツッツキで、自分の体が台に近いときに不用意にフォアに持っていかないようにしました」

渋谷は圧倒的な運動量でコート狭しと攻守に躍動した

3連覇を狙う偉関は、早い攻撃と多彩なカット攻略で渋谷を苦しめた

第1ゲームを逆転し、流れを引き寄せる

 圧倒的不利な対戦相手に、第1ゲームを逆転で取った渋谷。いつもとは試合の流れが異なっていたという。
「この決勝の前から、守備力には自信があったので、守備でまず互角の戦い方をして、攻撃で加点していこうと、試合の途中で思いました。それで、試合の後半は攻撃の回数が増えていったと思います。
 決勝では過去3回負けていましたが、それまで1ゲーム目を取ったことがなかったので、流れが来ていると思いましたね」

 とはいえ、第2、第3ゲームを続けて落とした渋谷は1対2とリードを許し、偉関が優勝に王手をかける。
「焦ってもいなかったし、負けるのが怖いとかそういう気持ちはなかったです。かといって、勝てるとも思っていなかった。だからもう、無我夢中って言ったらいいのかな。いかにいいプレーをするかということくらいしか考えていなかったと思います」

 2対2に追いつくと、最終ゲームは渋谷がスパートをかける。
「最終ゲームは前半で私の攻撃の手数が増えたので、中盤からは偉関さんは打たれる前に攻めなきゃという焦りの心境になったと思うんです。それで、3球目、4球目、5球目と、ラリーの早い段階で決めにきて、それがミスが多くなった原因になっていたと思います」

後半は攻撃の手数を増やしたという渋谷。フォアハンドドライブの連続攻撃がさえた

無我夢中でつかんだ最終ゲーム

 そして21-11で渋谷悲願の全日本優勝の瞬間が訪れる。
「やりきった感しかなかったです。もちろんうれしいけど、準決勝からゲームオールジュースの激戦で、それも大逆転勝ちだったので(渋谷浩 -18,-15,20,9,21 松下浩二)、優勝がうれしいとかではなく、やりきったという達成感しかなかったです。すぐには実感は湧きませんでしたね」

 試合を振り返って、勝負の行方を大きく左右したのは第1ゲームだったという。
「1ゲーム目の逆転勝ちが大きかったです。あれがなかったら勝っていなかったかもしれないですね。
 14-19までリードを広げられて、実は次のゲームのことを考えて今までに出したことがない、フォア側に長いサービスを出したんですよ。単純なサービスです。真下回転のバックハンドサービスで、それを持ち上げさせて、バック側にカットしたボールを偉関さんは回り込めないからツッツキで返すしかなかった。そのボールを私が攻撃して、そこから『もしかしたら行けるんじゃないか』と思ったんです。
 ただ、そのパターンは2ゲーム目以降では使えなくなりましたが(笑)」

 こうして渋谷浩はついに悲願の初優勝を果たした。
 4度目の全日本決勝で、圧倒的不利と言われたその壁を、自信を持った守備と勇敢な攻撃で乗り越えてみせた渋谷。
 あれから25年――。
 卓球は、ルールもボールも用具も大きく変わってきたが、変わらないものもある。
 それは、相手の心理を読み切ったとき、勇気を出した決断が流れを呼び寄せたとき、そして、勝利を決めた瞬間の高揚感だ。

 次回からは、この四半世紀でどのように卓球が変わってきたのか。
 21ポイント制から11ポイント制へ、38mmボールから40mmへ――ルールや用具の移り変わりと、それがプレーに与えた影響を、渋谷浩とともにひもといていこう。

↓動画はこちら
おかえり卓球〜渋谷浩と振り返る卓球の今むかし〜|試合編

おかえり卓球〜渋谷浩と振り返る卓球の今むかし〜|ルール・用具編

(まとめ=卓球レポート)

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