2025年6月15日、ドイツ・ブンデスリーガ2024-2025シーズンのプレーオフ決勝を最後に、ティモ・ボル(ドイツ)は華麗な卓球人生に幕を下ろした。
そのキャリアを通じて、彼は創造性あふれるプレーとフェアネスに満ちた振る舞いで、30年以上もの間、私たちを魅了し続けてきた。
では、なぜボルはこれほど長く第一線で活躍し続けることができたのか。
その答えを探るべく、卓球レポートは引退後初となるインタビューで、技術・戦術・フィジカル・メンタルといった多角的な側面から、「卓球脳」とも呼ぶべき彼の深い洞察に迫った。
最終回となる第5回では、30年を超える選手生活で高いモチベーションを維持し続けたボルにその秘けつを聞いた。
「ハンドブレーキ」を早めに引くことがモチベーション維持のポイント
私も、精神的に少し疲れを感じ、モチベーションが少し下がった時期もありました。
そのようなときは、卓球の練習を少し減らし、その代わりにフィジカルトレーニングを増やすようにしました。それを1〜2週間ほど続けると、また卓球への意欲が湧いてくるのです。
いわばハンドブレーキを早めに引いて、深いどん底に落ちないようにしていました。
最近では多くの選手がバーンアウト(燃え尽き)になっています。試合があまりにも多く、常にプレッシャーを感じているからだと思います。いつしか精神的に苦しくなってしまうのです。私はいつも早めに練習量を少し減らし、精神的にそれほど負担のかからない他のこと、例えばフィジカルトレーニングなどをするようにしていました。
子どもの頃からずっと、私は健全な向上心を持っているタイプの人間でした。私はいつも勝ちたいと思っていました。私は父と試合に行くとき、いつも「どこに行くの?これから何をするの?今度はどの大会なの?」と聞いていました。大会自体にはあまり興味がなかったのですが、いざそこに行けば、もちろん勝ちたいと思っていました。
それは、その後も同じでした。もちろん卓球選手として成功したいとは思っていましたが、常に自分に「ベストを尽くそう、それ以上のことはできないのだから」と言い聞かせていました。
それでも十分でなかった場合には「おめでとう、今日は君の方が強かった」と相手に伝えます。そして、試合を分析して、次はもっと良くしようとします。負けることを恐れていたのではなく、ただ常に「自分はベストは尽くした」と感じたかっただけでした。それが、勝たなければならないというプレッシャーを和らげ、楽しむことにつながっていたのです。
オンとオフのバランスのおかげで卓球を楽しみ続けることができた
私は練習のときは常に100%卓球に集中していて、すべてのことを徹底的に分析し、卓球と効率のこと以外は何も考えませんでした。でも、練習が終われば、もう卓球のことは一切考えませんでした。その後は卓球のことは全く頭に浮かべませんでした。
プライベートな生活があったおかげで、卓球に疲れてしまわないような良いバランスが取れていたのだと思います。実際、それは練習の後だけでなく、大会の後も同じでした。勝っても負けても変わりませんでした。大会後に思い悩むことはなく、翌日にはまたゼロから普通にやり直しました。それは、卓球を楽しみ続けるためのちょうど良いバランスでした。
卓球には多くの時間とエネルギーを費やす価値がある
卓球選手であることはとても素晴らしい人生であり、多くの時間とエネルギーを費やす価値があります。
しかし、常に楽しさが必要であり、周囲にとっても健全な枠組みの中で行われなければならず、その上で実現していかなければなりません。自分の周りに、支えてくれて信頼できる良いチームを築くことが大切です。それはコーチだけでなく、友人や家族など誰であっても構いません。全員の協力が必要なのです。自分一人だけでは成し遂げることはできません。しかし、この夢を全力で追う価値はあると思います。そして、皆さんを心から応援しています。
最初の段階ではボールコントロール、正確で安定した技術、そして何より良い動きが重要だと思います。常にボールに対して正しくポジショニングをして、足をしっかり動かすことがとても大切です。最初はチキータを覚えるよりもこちらの方が大事でしょう。チキータは、比較的簡単に後からでもすぐに身に付けられると思います。
一方で、常に完璧なポジショニングを取り、完璧な技術で打球するというのは、多くの努力を要し、長い時間がかかります。そして、それは若いうちの方が身に付けやすいのです。それは後からでは学ぶことはできません。
駆け足ではあったが、これまで5回にわたって、ティモ・ボルが長年にわたり世界のトップレベルを維持し続けてきた理由を探ってきた。
あらゆる問いに対して、ボルの言葉はそのプレーのように無駄がなく、整然としていて、そして何よりも、常に新しい発見に満ちていた。
その言葉の正しさを感じる一方で、彼が到達した境地が、誰もが容易に辿り着けるものではないことも痛感させられた。
だが、ストイックでありながらもどこか温かいボルの言葉には、「本気でトップを目指すなら、これくらいは当然だ」とでも言うような、静かな説得力がある。安易な励ましや優しい提案ではなく、真の強さとは何かを、自らの歩みで示してきたボルの言葉を一人でも多くの卓球選手に味わっていただきたい。
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(取材/まとめ=卓球レポート)




