特殊素材の起源はここにあった!バタフライが選んだ特殊素材『カーボン』と『アリレート』

日本卓球ルールは「第1章 基本ルール」の中で、ラケットについて次のように定めている。
「ラケット本体の厚さの少なくとも85%は、天然の木でなければならない。ラケット本体内の接着層は、炭素繊維、ガラス繊維、あるいは圧着紙のような繊維材料によって補強することができる。ただしその圧着層の1つの厚さは、全体の厚さの7.5%または0.35mm(いずれか小さい方)以下でなければならない」
かつて単板ラケットが主流の時代に、バタフライは多くの合板ラケットを生み出していた。そのバタフライが1970年代、さらなる高みを目指して掲げた目標は「打球に威力を出すこと」だった。そこで足を踏み入れたのが「木材以外の特殊素材を用いたラケット開発」という新たな領域だ。
この挑戦は、1978年にバタフライ初の特殊素材搭載ラケット『TAMCA5000』シリーズの発売という形で結実する。このシリーズに搭載された『カーボン』は、当時まだメジャーな素材ではなかったが、威力のあるボールを打つために求められる「軽くて強くて高反発」という条件を満たしており、この特性に注目したバタフライは、「打球に威力を出す」ラケットに最も適した素材としてこれを採用した。
しかし、発売当初はなかなかユーザーの支持が得られなかったという。木製ラケットの倍以上の価格と、今までにない『カーボン』独特の打球感と弾みが敬遠されたのだ。だが、その打球の威力、性能の高さから、トップ選手をはじめ、一般ユーザーにまで徐々に浸透していったこのシリーズは、のちに『ゲルゲリー』や『シュラガー』といった人気モデルに引き継がれることになる。
バタフライが次に目を付けた特殊素材『アリレート』が搭載されたラケット『キーショット』が発売されたのは1991年。初の『カーボン』搭載ラケットの発売から実に13年もの時を経ているが、この『アリレート』がバタフライの特殊素材ラケットの可能性をさらに押し広げる起爆剤となるのだ。


究極ともいえるバランス素材『アリレート カーボン』の誕生

ラケット開発の責任者・岩瀬祐介はこう語る。
「私の入社以前の話なのですが、『キーショット』発売時の資料を読むと、「『カーボン』だとボールが飛びすぎて回転をかけにくい。もうすこし弾みを抑えたラケットがほしい」という選手の声があったようです。そうした声は『TAMCA5000』シリーズの発売当初からあったのですが、そのようなニーズにマッチする素材がなかなか見つからず長らく苦労していました。
しかし、時代とともにあらゆる分野で多様な繊維素材のニーズが増えてきて、さまざまな特殊素材が出てくるようになりました。バタフライは、その中の1つ『アリレート』を採用しました。柔らかく、しなやかな『アリレート』を搭載した『キーショット』は高いコントロール性能と回転性能で人気を博しましたが、一方で、「『アリレート』は使いやすいが、もっと弾むラケットがほしい」というユーザーの要望も聞こえてきました。
そこで、硬い素材で高反発だが回転がかけにくい『カーボン』と、柔らかい素材で回転がかけやすい『アリレート』という相反する性質を持つ2種類の繊維を交織(異なる素材の繊維を1枚のシートに混ぜて織ること)することで、『アリレート カーボン』という特殊素材を開発したのです」
2種類の繊維の特長を「いいとこどり」しただけの単純な話に聞こえるかもしれないが、そこには人知れぬ苦労もあった。
「『カーボン』は工業製品やゴルフクラブ、テニスのラケットなど、他のスポーツ用品でも幅広く使われていますし、『アリレート』はロープやネットなどさまざまな用途に用いられ、ともに素材としては一般的なものです。しかし、繊維業界には異なる素材を組み合わせるというニーズが少なく、交織させた素材を作るには、莫大なコストと、大きなリスクがありました。しかし、当時の開発メンバーは『アリレート カーボン』の可能性を信じて、卓球のラケットに使うためだけの特殊素材の開発に踏み切りました。
この時のノウハウがのちのラケット開発にも生かされたので、そこで得た収穫は非常に大きなものでした」
こうして開発された『アリレート カーボン』を搭載したラケットの第1号が1993年に発売された『ビスカリア』である。


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岩瀬祐介 株式会社タマス 研究開発チーム

入社以来27年間、ラケットづくり一筋。世界卓球2003パリの男子シングルスでは、表彰台に上ったシュラガー、朱世赫、クレアンガ、孔令輝の4名が岩瀬が製作に深く携わったラケットを使用していたことに無上の喜びを感じたという。一方、「卓球をやめようと思っていたが、新発売の格好いいラケットで打ちたいがために卓球を続ける決心をした」という中学生の卓球レポート読者からのハガキも岩瀬の心を大きく揺り動かした。「選手に喜んでもらえるようなラケットをつくりたい」という思いは入社当初と変わらない。


すべてはここから始まった。『アリレート カーボン』を搭載した初のラケット『ビスカリア』

『アリレート カーボン』ラケット第1号の『ビスカリア』の性能は、ほどよく弾み、回転もよくかかるという当初の狙い通りのものになった。のちに数々のヒット商品を生み出してきた岩瀬もそのバランスのよさ、完成度の高さに驚きと敬意を隠さない。
「機械測定(弾みや回転の性能を機器を用いて数値で測定すること)よりも試打に頼っていた時代に、よくこれだけのバランスの取れた高性能のラケットをつくることができたと本当に感服します。自社のことながら、先輩たちの計り知れない努力には頭が下がる思いです。
性能面では『アリレート カーボン』を搭載したラケットよりも弾んで、回転がかかるものはありますが、プレー全体のバランスを考えたときに、『ビスカリア』の基本設計は、今でも多くのユーザーやトップ選手に支持されています」
発売とほぼ同時にティモ・ボル(ドイツ)が使用し始めたこともあり、『ビスカリア』は一般ユーザーの間でも人気に火が付くことになる。そして、バタフライは『アリレート カーボン』搭載ラケットを次々に市場に投入していく。
攻撃用シェークラケットでは、1997年にパワーがないジュニアや女子選手向きの3枚合板ラケットの『アイオライト』、1998年にはよりパワフルなボールを打ちたい選手のために檜材を使用した『コファレイト』、そして、2000年にはボル使用モデルの『ティモボル スピリット』が発売される。


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