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世界卓球2022成都 男子団体銅メダリスト
及川瑞基インタビュー

 選考会で代表権を獲得し、初出場となった世界卓球2022成都で10日間の激闘の末に男子団体で見事銅メダルを獲得して帰国した及川瑞基(木下グループ)。
 卓球レポートでは、及川に、自身のプレーについて、当事者にしか分からない当時の心境について、また、チームメートの戦いぶりについてなど、成都での日々を振り返ってもらった。

自分の力で代表を勝ち取れたことがうれしかった

--初めての世界卓球でしたが、どのような気持ちで臨みましたか?

 僕はこれまでこうした選手権大会にあまり出たことがなくて、日本代表になったことがあるのが、高校3年生の時(2015年)の時のアジアジュニア選手権大会と、同じ年の世界ジュニア選手権大会だけでした。世界ジュニアは日本がキャンセルしたので、出場したのはアジアジュニアだけですね(※編集部注 2015年の世界ジュニア選手権ヴァンデ大会は直前にパリでテロが発生したため、日本選手団は出場をキャンセルした)。
 今回はまず、選考会で自分の力で代表を勝ち取れたことがうれしかったです。世界卓球前には少し不安とか、緊張している部分ももちろんありましたが、目標としていたメダルを取ってくることができたので、今はほっとしています。

--大会直前に丹羽孝希選手(スヴェンソンホールディングス)が出場できなくなりましたが、その影響は感じましたか?

 そうですね。びっくりはしましたけど、大会も近かったし、自分も試合に出るんだって前向きに捉えた方が大きかったですね。実際に田㔟邦史監督にも「出番が増えるから、しっかり準備しておけよ」と言われていたので、身が引き締まりました。
 チームとしては最年長の丹羽さんがいなくなることで、ベンチから応援するのは田㔟さんも含めて4人、試合の準備をしている選手がいたら3人になるので、そういうところでも結構大きな差はあったかなと思います。

--予選グループリーグのドローの結果を見てどう思いましたか?

 他のグループを見て、例えば、ドイツとか韓国は比較的楽というかやりやすいグループだと思いました。それに比べたら日本はちょっときついグループに入ったと思いましたが、予選で強いチームと試合をしておけば、決勝トーナメントでも力が発揮しやすいとプラスに捉えていました。

2022 LION CUP TOP32では準決勝で丹羽を破り、2位で代表権を獲得した

ここで「及川」をアピールしなければと思った

--初戦のイラン戦は3番で起用されました。自分のプレーを振り返っていかがでしたか?

 試合の前日とか、その前の日の方が緊張していましたね。試合が近づくにつれて、自分の中では緊張がほぐれていったと思っていましたが、実際に試合が終わってからハイライトの動画を見てみたら、結構顔が緊張していました(笑)
 ホダエイには3月のWTTスターコンテンダー ドーハで3対0で簡単に勝っていたんですよ。サービス・レシーブが強いというイメージはありましたが、彼の他の試合の動画も見て試合のイメージをつくって入ったんです。でも、全然いつもの思い描いているプレーはできなかったですね。相手も0対2で後がなかったので、思い切って来ましたし、これまでもイラン代表として団体戦にも出ていますし、やりづらさはありました。
 ただ、どんなに競ってゲームオールでも勝ちは勝ちなので、とりあえず粘って頑張ろうという思いだけでプレーしました。
 頼もしい仲間がいるので、自分が落としても大丈夫、チームは負けないとは思いましたが、やっぱり自分は負けたくなかったし、毎回4番に回すのも嫌でしたから、チームのためにも頑張りましたね。

--初戦は及川選手が決勝点といういい形でスタートしましたが、2戦目のルーマニア戦は厳しい戦いになりましたね。

 1試合目(イラン戦)が終わって、1日空きましたし、あの舞台の雰囲気というか団体戦の流れを経験して、2試合目からは結構リラックスできるかなと思っていましたが、なぜか1試合目の修正ができないというか、1試合目よりも硬かったくらいで、相手(H.スッチ)のペースにはまってやられてしまって、本当に悔しい一戦になりました。
 相手は様子見で入れてきただけなんですが、自分が勝手に焦って、「相手にやらせたらダメだ、全部決めにいかなきゃ」みたいな気持ちになってしまって、それが最後まで修正できませんでした。
 そのあと4番は、たぶん張本(張本智和/IMG)自身がO.イオネスクには負けないだろうと思っていたと思うんですよね。でも、僕は何回か対戦したことがありますが、乗らせたらああいう展開になってもおかしくない相手だとは思っていました。
 5番の戸上(戸上隼輔/明治大)は緊張したと思うのですが自分の力を発揮したら負けない相手だと思いました。自分が落としてラストまで回ってしまったので必死に応援しました。

--次の香港戦も3番で起用されて、呉柏男と大激戦になりましたね。

 ルーマニア戦でかなり悪い負け方をして、それでちょっと気持ち的に吹っ切れた部分がありました。技術はすぐには変わらないと思うので、まず気持ち的にリラックスして、それから戦術をしっかり考えようと思って試合に入ったら、前の試合よりはちょっとリラックスできました。
 でも、相手も世界卓球に何度も出ていますし、香港という強いチームを背負って出てきているので、厳しい試合にはなりましたが、粘って粘っていけば絶対にチャンスはあると思っていたので、極力先手を取れるように最後まで頑張りました。
 相手はフォアハンドが強くて、ためて打たれると威力がありましたし、僕も緊張で返球が甘くなってしまうことがありましたが、そこをきっちり見逃さずに攻めてきたので、最後まで怖さはありました。
 ただ、台の弾みや距離感などを徐々につかめてきていたので、それで少し楽にプレーできるようになってきたという部分はあったと思います。

--ルーマニア戦で負けた後、3番は横谷晟選手(愛知工業大)が起用されるんじゃないかという思いはありませんでしたか?

 それはもちろんありました。どちらも初出場ですし、横谷もしっかり準備をしていました。どちらが出てもおかしくなかったと思います。そういう状況の中で、一度負けた僕が出してもらえたので、絶対に負けられないし、ここで「及川」をアピールしなきゃいけないと思ってプレーしました。

香港戦では持ち前の粘り強さを発揮してゲームオールジュースの接戦を物にした

ブラジル戦は日本で一緒に練習していた時に
相手のクセやプレーの傾向を読み取っていた

--予選1位通過が決まって、決勝トーナメントのドローを見た感想はいかがでしたか?

 中国の反対側を引ければ一番いいとは思っていましたが、中国側を引いて、ブラジル、ポルトガルと強豪国が入ってきたので一戦一戦の勝負だなという覚悟はできましたね。

--ブラジル戦は戸上選手がエースのカルデラーノに勝って2対0で回ってきました。

 対戦相手のイシイは、日系の選手で、顔もそうなんですけどプレーも普通の日本人みたいな感じで、あまり怖さはありませんでした。実は、Tリーグの開幕でカルデラーノが来日していた時に、イシイも一緒に来ていたので、木下で2日に1回くらい練習して慣れていたというのもプラスになりました。自分の方が、相手の癖やプレーの傾向を読み取りながら練習していたんだと思います。向こうの方が意識して硬くなっているなと感じました。

--メダル決定戦のポルトガル戦は、2対0で回ってきて、3番でモンテイロと対戦しました。

 モンテイロは投げ上げサービスとフォアハンドが強い上に、台がすごくボールが止まる台だったので、思うようにチキータレシーブができなくて先手を取られてしまう場面がありました。
 チーム的には2対0で回ってきたので、絶対に自分で締めるぞという気持ちではいました。自分が負けて後半に回ってもチームは勝つと思っていたので、試合にはリラックスして入れましたが、相手がうまく攻めさせてくれなかったので、もう少し積極的に自分から攻めればよかったかもしれません。

ブラジル戦では知略家の一面ものぞかせた

馬龍戦は絶好のチャンスだと思った

--メダル獲得が決まって、準決勝の中国戦では1対1で回ってきて、馬龍との対戦でした。

 智和が2番で勝ってくれて、希望の光が見えたというか、この勢いに乗って俺も1点取れるんじゃないかという気持ちで試合に入りました。
 準決勝で出てきた樊振東、王楚欽、馬龍とは3人とも対戦したことがありますが、馬龍とは過去2回やっていて、0対4で負けたことはなくて、2回目は2対3の7-7までいって、そこからアンラッキーなポイントがあったりしてあと少しのところで負けてしまいました。自分の中では結構やりやすいイメージがあったので、もちろん相手は強いですけど、絶好のチャンスだと思って試合に臨むことができました。
 あの舞台で世界チャンピオンと対峙したら普通は萎縮してしまうと思いますが、自分の中では、予選リーグからの試合の中でも一番いいくらいのプレーができたと思います。
 ただ、馬龍は試合が進むにつれて、こっちのやりたいことをひとつずつつぶしていって、弱点を見つけたら徹底的にそこを攻めてきて、僕の中では競り合っているようなつもりで7-7、8-8くらいの感じでプレーしているのに、得点板を見ると2-8くらいに離されていました。
 実際に対戦するとよく分かるんですが、サービス・レシーブの精度だったり、3球目の決定力の差だったりで、こっちが何もしてなくても気がつくと点差を離されているという感じになってしまうんです。そういう意味で、トータルの技術の質と精度の高さは痛感しました。
 今回は特にワールドツアーやWTTと違って、特別な舞台ですし、めちゃくちゃ緊張した場面でも質を落とさずに、自分の力を発揮していかなきゃいけないという難しさは感じましたね。技術的なことで言えば、ラリーになる前の、サービス・レシーブ、台上プレーの精度が少しでも落ちたら、中国選手は見逃さないで攻めてくるので、そういうところは見習うべきだと思いました。

--後輩の張本選手が中国から2点取りしたことはどのように感じましたか?

 4番の樊振東戦も、2番で勝った勢いで勝つんじゃないかなとは思って見ていました。ベンチで見ていて、智和がじわじわ点数を取って、ゲームも取って「本当に勝てるな」と思いましたね。樊振東の試合はよく見ますが、智和戦ではいつもより様子を見ながらプレーしているというか、おとなしいと感じました。逆に、智和はイケイケでプレーしていたので、これは行けると思いながら応援していました。
 自分がこの舞台に立つまでは、中国が3対0で勝つところしか見たことがなかったのに、自分の目の前で2対2になって、あと1点で勝てるところまで来て、戸上にも全然チャンスがないわけではないと思ったし、自分の役目はベンチを盛り上げるだけだと思って全力で応援しました。
 1ゲーム目で9-4と戸上がリードしているところから、王楚欽も緊張している中でじわじわ追い上げて、逆転でこのゲームを取って、ずいぶん表情がリラックスしてしまいましたね。どんどん打球点も高くなって、攻めが厳しくなってきたので、2ゲーム目以降は「厳しいな」と思いながら見ていました。

--あと一歩のところまで追い詰めながらも、やっぱり超えられなかった中国との差はどのようなところに感じましたか?

 まずは、フォアハンドの決定力ですね。常にその怖さは感じながら試合をしています。
 あとは、ミスの少なさですね。ミスが少ないからこそ、相手の弱点を見つけた時に、そこを徹底して攻めてどんどん点数を取っていけるんだと思います。メンタルの強さとか思い切りの良さも大事ですが、今回戦ってみて、そうした技術レベルの高さを特に感じました。

馬龍に対して自信を持って戦ったという及川。敗れはしたが大舞台で強さを見せた

「及川と言えばこれ」という武器をつくりたい

--今大会を通して感じた課題と、今後それをどう克服していくかというプランはありますか?

 あの準決勝の舞台で馬龍と対戦できる選手は本当に限られている中で、自分はそこで戦うことができていろいろ感じました。
 世界のトップでプレーしている選手はやっぱり何かずば抜けたものを持っていますし、その武器を生かすために一つ一つの技術があると思います。自分も技術としてできることはいろいろあると思いますが、「及川と言えばこれ」という武器がないので、個人的には、フォアハンドと台上技術、サービスでもっと勝負できるはずだと思いましたし、より強化していけば、また中国と大きな舞台で当たってもチャンスはあるんじゃないかと思います。
 もちろん弱点の補強も大切だと思いますが、長所をより伸ばしていくことに重点を置いてやっていきたいと思います。
 そのためには、練習も大事ですけど、全日本卓球とか世界卓球とかの大舞台でもっと経験を積んでいきたいですね。これまでも目標としては「日本代表」を口にしてはいましたが、実際に世界を目の当たりにして戦って、絶対に次も日の丸を背負って世界を相手に戦いたいと今まで以上に思うようになりました。

--今大会の出来に点数を付けるとすれば何点ですか?

 3勝3敗という結果と銅メダル獲得で40点、50点くらいですね。あの舞台で、自分が思い描いていたプレーをすることの難しさがわかりました。正直、全然満足はしていないです。
 もし、水谷さん(水谷隼/木下グループ)に聞いたら20点くらいって言うでしょうね(笑)

--大会期間中、水谷さんとはやりとりはあったんですか?

 毎日、DM(ダイレクトメッセージ)をいただいて、いろいろアドバイスはもらっていました。ルーマニア戦が終わったあとは結構言われましたね。「フォアハンドの打点が遅い」「バックハンドの質が低い」「レシーブの打点が遅すぎる」「下がりすぎ」とかいろいろ言われました。でも、「バックストレートがよかった」とか「サービスは悪くなかった」とか、叱られるのが8割で褒められるのが2割くらいの感じで(笑)
 水谷さんはこういう舞台を何度も経験して選手の心境も分かっているので、アドバイスは本当に参考になります。中国は馬琳とか王皓とか、こういう舞台を戦ってきた指導者が今の選手を教えているので、そういうところでアドバンテージがありますが、僕も水谷さんにいろいろ教えていただけるのは本当にありがたいですね。今後にも必ず生きてくると思っています。

元来の明るさを取り戻した及川。大舞台での経験を糧にもっと強くなってほしい


 インタビューの最後に「他にも言っておきたいことは何かある?」と及川に尋ねると、「そうですね」と深刻な表情で間を置いてから、ぱっと目を見開いて「火鍋がめちゃめちゃおいしかったんですよ。14日いたうち12日は毎日火鍋食べてました!」とこちらの期待を微妙に外してきた「いつもの及川」にどこか安堵を覚えた。
 及川は昨年の全日本卓球で優勝したものの、世界卓球2021ヒューストンへの出場はかなわず、ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ全日本卓球2022では、若手の吉山僚一(愛工大名電高)に敗れるなど、思うように成果を上げられない時期が続いた。世界卓球2022成都の代表選考会を兼ねた2022 LION CUP TOP32で2位になり、代表権を自力で獲得してからも、持ち前の軽妙さは影を潜め、会場で見かけてもどこか浮かない表情をしていることが多かった。
 そして、今大会の初戦となったイラン戦の3番では、スクリーン越しにこちらまで緊張が伝わってくるような硬い表情の及川がいた。その及川が、準決勝の中国戦で馬龍からゲームを取り、躍動している試合を見た時には、勝敗を超えて、やっと次のステージに進んでくれたことを感じ、胸が熱くなった。
「じゃあメダルは火鍋のおかげだね」と私が返すと「本当そうです!めっちゃうまかったんですよ」と、おそらく筆舌に尽くしがたい自身の苦悩や努力、チームメートの頑張り、スタッフや所属母体のサポートなどまるでなかったかのように火鍋のおいしさを強調する及川に、これからもあらゆるものを味方に付けて強くなっていってほしいと願わずにはいられなかった。
(文中敬称略)

(まとめ=卓球レポート)

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