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練習、お邪魔します!
インターハイ、全中を制覇!野田学園【練習編】

 今、勝っているチーム、勢いのあるチームを訪問し、その練習風景を伝える企画。結果を出すチームの日常からは、強くなるためのヒントや刺激がたくさん得られるはずだ。
 第2回は、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)、全中(全国中学校卓球大会)と夏の主要な全国大会を完全制覇した野田学園中学・高校卓球部(以下、野田学園)の練習場にお邪魔した。

地元山口開催のインターハイで9度目の正直を果たす
 JR山口線の上山口駅を降りて北へ10分ほど歩くと、野田学園の校舎が見えてくる。すぐ近くには山口県庁があり、南西に少し足を伸ばせば、山口県きっての温泉地である湯田温泉がある。およそ600年の歴史を持つ名湯のそばだからか、野田学園のあたりは、のどかながらもどこかみやびな雰囲気が漂う。

野田学園の校舎。最寄り駅はJR山口線の上山口駅だ
校舎には運動部の好成績を祝した垂れ幕がかけられている

 野田学園の卓球部が本格的な強化を開始したのは、2008年9月。それまで、仙台育英高校男子卓球部の監督を務めていた橋津文彦氏(野田学園卓球部総監督)が、同校の強化終了に伴い、地元である山口県の野田学園へ転任してから歴史がスタートした。
 新たな環境に身を投じ、模索しながらも着実に強化を推し進めた橋津監督は、吉村真晴(SCOグループ)や有延大夢(T.T彩たま)、戸上隼輔(井村屋グループ)ら多くの名選手を育成。彼らを擁し、これまでインターハイの男子学校対対抗で8度決勝まで勝ち進むもはね返されてきたが、今夏の地元山口開催のインターハイで9度目の正直を果たした。
「皆さん、お待たせしました!」。優勝直後、橋津監督は地元テレビ局のインタビューにそう第一声を発したが、野田学園に転任してからこれまでの万感の思いがこもった言葉だった。
 インターハイに続いて北九州で行われた全中の男子団体でも3年ぶりの優勝を果たし、今年の夏を席巻した野田学園。
 高校日本一、そして中学日本一を追い続け、ついにそれをかなえた野田学園の日常とはどのようなものなのか。その練習風景を追う。

地元開催のインターハイ男子学校対抗で悲願の初優勝
インターハイに続き、全中の男子団体も制覇。野田学園の夏になった
野田学園をたばねる橋津文彦総監督。野田学園の歩みは、すなわち橋津監督の歩みだ

練習メニューに慣習なし。最新のトレンドを追う練習風景
 野田学園卓球部が練習するのは、校舎から数分ほど歩いた場所にある「野田学園 第2体育館」と名付けられた卓球部専用の練習場だ。冷暖房完備の平屋建てで、取材時は8台の卓球台が置かれており、選手たちが動き回ってボールを打ち合うのに十分な広さがある。
 部員は高校生が13人、中学生が8人の計21人(2025年9月取材時)。橋津監督が全体を見つつ、主に高校生を指導し、野田学園中学校卓球部監督の中川智之氏が主に中学生を指導する。
 取材にお邪魔したのは平日だったが、16時が近づくと授業を終えた生徒たちが続々と卓球場に集まり、練習が始まった。

選手たちが汗を流す「野田学園 第2体育館」。卓球部専用の練習場だ
練習前は約20分をかけて入念なウオーミングアップを行う
ウオーミングアップを終え、集合した後、練習がスタート


 授業がある平日の練習スケジュールは上表の通り。ちなみに、休日は9時から17時30分まで練習を行う(下表参照)。
「練習の相手決めは、僕や中川が決める場合もありますが、試合が近い選手に自分で決めさせることも多いですね。特に決まりはなく、そのときのフィーリングです。だから、高校生が中学生の相手をすることも多いですよ」と橋津監督。取材時も、高校生と中学生とが分け隔てなくボールを打ち合っていた。


 練習メニューについても、特に決まりはないという。
「こちらがメニューを組むこともあるし、選手が各自課題に取り組むこともあります。だから、一概に『うちの(野田学園の)練習はこれだ!』と言えるようなものはないですね。本当に自由でいろいろです。ただし、試合が近いときはゲーム練習を多めに取り入れることと、練習の最後にはできる限り多球練習を行って追い込むようにしています/橋津監督」

 取材に訪れた日も、システム練習を行っている選手の隣では台上からフリーの練習が行われているなど、台ごとにさまざまな練習が行われていた。一見すると、選手の自主性に委ねる部分が多く、個々で質に差が出てしまいそうな練習風景だが、その根底には橋津監督の指導方針がしっかり共有されているという。

「僕は、これまでのやり方や成功したやり方にこだわらないし、こだわらないよう心掛けています。
 その半面、『今、勝っている選手をしっかり分析する』ことにはこだわっていて、どうしたら彼らに近づけるかを常に研究し、落とし込む方法を考えて選手たちを指導しています。卓球は日々進化していますから、それに応じて指導者もアップデートしていかないといけません。今のトレンドを選手たちに共有し、それをもとに彼らは各自でさまざまな練習を行っていますが、少し月日がたてば卓球のトレンドも変わるので、全く違う練習を行っていると思います/橋津監督」

1年生エースの岩井田。一心不乱に強打を打ち込んでいた
主将の渡邉。ハードな練習の中でも時折笑顔がのぞく
インターハイで活躍した3年生の木村

「得点力が高いプレーができているかどうか」に目を光らせる
 野田学園では選手ごとに多様な練習が行われていたが、選手に任せきりというわけではなく、時折、橋津監督が選手に近づき、指導やコミュニケーションを行う。どういうところに気づいたら選手に声をかけるのかを橋津監督に尋ねると、野田学園の強さの一端にふれるような言葉が返ってきた。

「選手たちの練習を見るときには自分なりのチェックポイントがあって、それは『攻撃力が高いプレー、得点力が高いプレーができているかどうか』です。得てして指導者は『ミスをしないこと』に目が行きがちです。もちろん、ミスをしない安定性を身に付けることは大切ですが、そこばかり見てしまうと選手の得点能力が低くなってしまいます。技術レベルによって重視する視点は変わってくるとは思いますが、野田学園が目指しているのは日本チャンピオン、日本代表、そして、その先の世界です。得点力が高いプレーができているかどうかは、かなり意識しています。
 そのポイントはいろいろで一概には言えませんが、打球点を落としていたり、ボールを持ち上げるような打ち方が目についたら指摘します/橋津監督」

 攻撃力の高さは野田学園の伝統的なチームカラーといえるもので、これまでにも、吉村真晴、有延大夢、戸上隼輔といった破格の攻撃力が魅力のトップ選手たちを生んできた。その土壌には、この橋津監督の理念がある。

橋津監督は絶えず選手たちの攻撃力に目を光らせる

今、注目しているのは『体の上下動』と『サービスの第1バウンド』
「少し月日がたてば、また変わりますが」と前置きした上で、橋津監督は現在重視している具体的な技術ポイントを2つ教えてくれた。

「1つは、『ボールの高さに合わせて体を上下動させる』ことです。一般的には『目線をぶらさないように』と指導すると思いますが、飛んでくるボールの高さは一定ではありません。一定の目線だと、仮に高いボールが来たときにラケットを振り切れないし、目測を誤って打ちミスする可能性もあります。高いボールが来たら、それに合わせて姿勢も高くすると目測が正確になるし、ラケットをしっかり振り切ることができます。同じように、低いボールに対しても姿勢を低くすることでチャンスボールに見えるし、ラケットもしっかり振り切ることができます。このような理由から、選手たちが『ボールの高さに応じた体の上下動ができているかどうか』は注意深くチェックしています。
 2つ目は、サービスです。具体的には、『第1バウンドを台にぶつけるように出す』ことです。そうすると、ボールが台にぶつかった衝撃で回転軸が微妙に変わり、相手コートにバウンドしてからも微妙に変化するので、相手にとってはレシーブしにくいサービスになります。コントロールが難しいですが、身に付ければ大きな武器になるので、選手たちには第1バウンドを台にぶつけるイメージでサービスを出すようアドバイスしています/橋津監督」

「サービスでは第1バウンドが重要」だと橋津監督

選手は、『自分の理論』を持たないといけない
 具体的な技術の注目ポイントに続いて、橋津監督は次のような指導理念も話してくれた。

「当たり前ですが、選手はみな同じではなく、身長が高い選手もいれば低い選手もいます。卓球台に対しての高さも人によって変わってくるので、共通する部分はもちろんありますが、全員同じというわけにはいきません。だから、僕は、選手たちがそれぞれ『自分の理論』を持たないといけないと思っています。
 例えば、聖也(岸川聖也/日本男子監督)や真晴(吉村真晴)が練習場に来ると、彼らなりの理論で選手たちを指導してくれます。僕の表現方法や考え方と違うこともあるし、みんなそれぞれ違うことを言っています。でも、それで構わないんです。結果を出してきた選手たちはみんな独自の理論を持っていますから。
 だから、選手たちには、いろいろな人からいろいろな話を聞いて自分なりの理論をつくってほしいし、自分もそれらを受け入れられるよう頭でっかちにはなりたくないなと思っています/橋津監督」

 選手の多様性を理解し、自身の考えを押しつけず、いろいろなものを柔軟に受け入れる。こうした橋津監督の姿勢が、選手たちの成長を促していることは間違いないだろう。

緊張感とポジティブな空気を両立させる二人の指導者
 練習中は、橋津監督と中川監督が場内を動いて選手に適時アドバイスを送ったり、コミュニケーションを取ったりしていたが、どちらかというと橋津監督がどっしりと構えて全体を見渡し、中川監督が選手たちとこまめにコミュニケーションを取っている印象だ。
 中川監督はインタビューで「橋津監督と選手の中和剤でありたい」と話してくれたが、この二人の指導者の役割分担によって、野田学園の練習場内には、ほどよい緊張感がありながらも、選手たちが元気よくのびのびとラケットを振れるリラックスした空気が流れていた。

どっしり構え、全体を見渡す橋津監督。威圧感はなく、あくまで自然体だ
橋津監督と選手たちとの間を取り持つ存在の中川監督

 練習の最後は、さまざまなパターンのハードな多球練習が行われ、その後、ストレッチなどのクールダウンを入念に行い、20時30分に野田学園の1日が終わった。
 ここから自主練習の時間になり、サービスやトレーニングは規定練習終了後に各自が自主練習を行う。ほとんどの選手は練習場から数分のところにある寮に住んでおり、自主練習は寮の門限である22時まで認められる。毎日、多くの選手が規定練習を終えても練習場に残り、自主練習を行うという。

クールダウン後、集合して野田学園の1日が終わった


 野田学園の1日に密着して印象に残ったのは、練習内容はハードだが、どの選手も楽しそうに取り組んでいたことだ。彼らの前向きな姿勢の背景には、橋津監督の指導哲学が大きく影響していることは間違いないだろう。
 柔軟でポジティブな発想で選手たちの道を照らす橋津監督と、その思考に引っ張られるように、目を輝かせながら厳しい練習に没頭する選手たち。そこに、野田学園の強さの本質を垣間見た気がした。

練習場内には、野田学園のテーマが横断幕で高々と掲げられている

↓動画はこちら

インターハイ、全中を制覇!野田学園【選手編】はこちら
インターハイ、全中を制覇!野田学園【監督・校長編】はこちら


(取材/まとめ=卓球レポート編集部)

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