今、勝っているチーム、勢いのあるチームを訪問し、その練習風景を伝える企画。結果を出すチームの日常からは、強くなるためのヒントや刺激がたくさん得られるはずだ。
第2回は、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)、全中(全国中学校卓球大会)と夏の主要な全国大会を完全制覇した野田学園中学・高校卓球部(以下、野田学園)の練習場にお邪魔した。
ここでは、野田学園卓球部総監督の橋津文彦氏、野田学園中学卓球部監督の中川智之氏、野田学園高等学校の清水利宏校長のインタビューを紹介する。チームを率い、支えるキーマンたちの言葉から、野田学園のチームビルディングにふれてほしい。
さまざまな時代の流れに常に敏感であるよう心掛けています
--インターハイ初優勝おめでとうございます。あらためて、悲願を達成されたお気持ちをお聞かせください。
橋津 もう優勝できないんじゃないかと思ったこともありましたが、いろいろな人の応援でなんとか優勝することができて本当に良かったと思います。
--9度目の決勝進出での勝利でした。
橋津 数えたくないですね(笑)。何回決勝に行ったかよく分かりませんが、ほとんどがなんとか決勝にたどり着いたという感じで、本気で勝ちにいって負けたのは、そのうちの2、3回でしょうか。
これだけやってきてようやく優勝できましたが、今思うのは連覇している学校のすごさ。青森山田や愛工大名電、女子の四天王寺などはインターハイで何連覇もしていますが、優勝してみて、あらためて連覇する学校はすごいなと尊敬します。
インターハイを連覇するためには、環境であったりスカウトであったり、学校の組織としての強さが求められます。優勝して「ああ、やっとたどり着いた」と思う半面、連覇してきたチームというのはとんでもなく強いチームなんだなということを1番に感じますね。
--決勝の壁を越えられた要因はどこにあったと分析しますか?
橋津 率直に言って、駿斗(岩井田駿斗)の存在が大きかったと思います。駿斗が中学1年生でうちに入ってきた年の全中で初優勝しているんですよね。今回も駿斗が高校1年生に上がったタイミングですし、琥珀(中野琥珀)も急激に力をつけていて、翼(島田翼)も星槎から入ってきました。選抜は今の2、3年生で決勝まで行きましたが、そこから大きくメンバー変更するくらいチーム力が高くなったことが勝因だと思っています。
--地元開催での初優勝で喜びもひとしおだと思います。
橋津 本当は、山口でインターハイが開催されるのは来年(2026年)だったんですよ。本来であれば、今年のインターハイは大阪での開催だったのですが、万博の関係で開催が入れ替わりました。来年であれば駿斗たちが2年生になっているのでタイミング的に良いなと思っていたんですが、1年前倒しになったので「やばいな」と内心では焦っていました。
--それでも見事に初優勝を果たしました。
橋津 皆さんが応援してくれたことが大きな勝因ですが、それ以上に今までチームを支えてくれた2、3年生たちがベンチや観客席から声をからすまで応援してくれました。そこに感謝したいですし、良いチームがつくれたと思っています。
--地元開催の影響についてはいかがでしたか?
橋津 大応援団がつくれることは大きなメリットです。よくホーム&アウェーと言われますが、応援の後押しで勢いをつくることができました。
一方、ホームのプレッシャーももちろん大きかったですが、そうした重圧は監督が背負うものだと思っていますし、プレッシャーによる心地よさもあったのかなと、勝ったので言えます(笑)
--選手たちに対してはどんな思いですか?
橋津 今回は1年生が主体のチームで、起用できなかった3年生たちには申し訳なかったですが、唯一3年生で出場した木村の存在が大きかったですね。良いところで勝ってくれましたし、試合前のミーティングでも積極的に発言して「後輩だけに任せないぞ」という意地を見せてくれたのがチームとして大きかったと思います。
一方、1年生の3人は大舞台で少なからずプレッシャーを感じるはずなんですが、駿斗も琥珀も翼も勝ち気で受けない(受け身でない)プレーをして、チーム全体の流れをつくってくれました。期待に応えてくれたというより、期待以上のプレーをしてくれたと思います。
--あらためて、初優勝おめでとうございました。話を変えて、日常についてお伺いします。どのような方針のもと、選手たちの指導に当たられていますか?
橋津 その時代に合った子供たちとの接し方、距離感があるので、「固定観念を持たない」よう気を付けています。子供たちも成長して変わっていかないといけないけど、僕自身も適応しないといけない。そのため、教育的なことや世相など、さまざまな時代の流れについて、常に敏感であるよう心掛けています。
--具体的には、どういうことを心掛けていますか?
橋津 それはもう、子供たちと直接話をし、話を聞くことです。例えば、僕が選手たちに聖也(岸川聖也/日本男子監督)のインターハイはこうだったんだとか、真晴(吉村真晴/SCOグループ)の全日本はこうだった、戸上(戸上隼輔/井村屋グループ)はこうって話をしても、響く子もいれば響かない子もいるんですよ。そうしたときに、ふと自分が昔、指導者に対して「ああ、また同じ昔話しているなあ」と疎ましく思ったことを思い出すんですね。ですから、そうした昔の武勇伝は控えた方がよいのではと思ったりします。
とはいえ、子供たちも少し背伸びをして大人の考え方に近づいていかないといけないし、僕自身も少し目線を下げないといけません。
--日々のコミュニケーションによる気づきが大切なんですね。
橋津 そうですね。「みんなで優勝するぞーっ!」と号令をかけても、卓球部は21人いて、みんなそれぞれ考え方が違います。僕の1つの考え方を全員に押しつけるのはやっぱり違うし、21人全員が違う考え方で違う方向を向いていても、「この人はこういう人だ」とお互いが認め合い、共有し合えていれば、チーム戦のときに同じ目標を向ける。最近は、そういうふうに考えるようになってきました。
だから、僕の考え方が正しいなんて全く思ってもいないし、いろいろな人にいろいろなことを教えてもらえばいいし、いろいろな話を聞けばいい。そうした「人と人とが接するチャンスを多くつくる」ことが、今、重要だと思っています。
例えば、いつもはインターハイ前に卒業生が練習に来てくれるのですが、今回は都合が合わず、高木和卓選手(ファースト)と吉山和希選手(岡山リベッツ)に来ていただき、選手たちに大いに刺激を与えてくれました。特に、高木和選手は素晴らしかったですね。非常にエネルギッシュに練習の相手をしてくれて、ベテランがあれだけ頑張っている姿は、子供たちにはとても新鮮に映ったと思います。
--技術的な指導についてはいかがですか?
橋津 「今、勝っている選手をしっかり分析する」ことにこだわって指導しています。昔のやり方、これまでのやり方にはこだわりません。王楚欽(中国)やルブラン兄弟(フランス)、林昀儒(中華台北)ら今、世界で勝っている選手のプレーを研究しながら練習に反映させています。
--話題を変えまして、昨今、中学校の部活動の地域展開など、環境が大きく変化しつつあると思います。現状やこれからについて、橋津監督はどのようにお考えですか?
橋津 やはり僕は、部活動がもっと残って頑張ってほしいという意見なので、中学校の部活動を応援するような活動をやらないといけないと思っています。インターハイにしても全中にしても、あれだけ声をからして応援して、勝ったら喜んで負けたら泣いて、という経験は日常の生活ではできないと思うんですよね。子供たちだけでなく、保護者の方や応援に来てくれた方も、日頃あんなに大きな声を出すことはないでしょう。そこまで爆発させられるものは、一人の指導者として守っていきたいと思っています。
一方で、働き方改革で部活動が学校から離れて地域に移行していくのは変えられない流れです。例えば、サッカーなどはJリーグを中心にうまく循環していますが、卓球はTリーグと実業団がいまだに分かれており、なかなかサッカーのようには回っていません。中学校の部活動の移行に関しても、山口県内だけを見ても移行する市町村としない市町村とでまちまちです。今は、インターハイにしても全中にしても、既存のものをどう守っていくか、形を変えつつあるものに対して時間を稼いでいるだけのネガティブな考え方が多いように思います。僕は、それよりも、どういうふうにやれば、いろいろなものがうまく融合して発展していくのか、ポジティブなことを考えていかないといけない年齢だし、それが役割なのかなと感じ始めています。
自分も含めてですが、みんな迷って止まってしまっているんですよね。後ろに下がることもできないし、かといって前に進むこともできなくて。みんな迷って、自分の今いる立ち位置で立ち止まってどうしようどうしようと、ただ時間が過ぎているのがここ数年の卓球界全体の流れだと思うんです。なので、いきなり大きく変えることはできなくても、少しでもポジティブに前に進めていけるような行動や発言をしていきたいと思っています。
--貴重なご意見ありがとうございました。最後に今後の抱負をお聞かせください。
橋津 3つあります。今回、1年生中心で優勝したので、連覇です。何連覇もしてきた学校があるので、この優勝で満足することなく、その次もその次も連覇に挑戦することが1つ。
次に、いつも思うことですが、真晴のときは在学中に岸川に勝ちたい、戸上のときは在学中に真晴に勝ちたいと思ってきたので、今いるメンバーで在学中に戸上に勝って全日本チャンピオンを目指したいなと思っているのが2つ目。
最後は、教え子がこれまで4回オリンピックに出場しましたが、僕はまだ会場で応援したことがないんですよね。だから、聖也が日本男子の監督になったこともあり、2028年のロサンゼルスオリンピックは、ぜひ会場で応援したいと思っています。目の前で聖也率いる日本男子がメダルを取ったら、僕は思い残すことはありません。ミッションコンプリートかな(笑)
選手がコミュニケーションを取りやすい位置にいることを心掛けています
--3年ぶりの全中優勝おめでとうございます。振り返っていかがですか?
中川 今年だから普段と何か違うことをしたというのは特段ありません。3年前に優勝した時は、1年生に岩井田、中野がいたり、インターハイで優勝したメンバーがそのまま出ていたりして、確実に勝ち点を計算できる選手が数人いました。しかし、今年のメンバーに関して言えば、確実に点を取ってくる選手がいなかったので、総合力で勝つことができたのかなと思います。その中でも、松山(松山侑聖)と小路(小路魁虎)の二人の3年生が非常に頼もしかったですね。
--全中の前には、高校生たちが地元山口でインターハイ初制覇を果たしました。
中川 プレッシャーはもちろんありましたが、「中学生たちも続くぞ!」という気持ちが強かったですね。
インターハイは優勝する可能性が十分あると思っていました。観客席から応援することしかできませんでしたが、地元開催のインターハイで初優勝を果たしてくれて本当にうれしかったですね。
--全中が開催された北九州市は、中川監督の地元だと伺いました。
中川 はい。高校生たちが地元で優勝しましたが、「全中も俺の地元だから優勝したい気持ちが強い」という話を選手たちにしていました。中学校の部活動を取り巻く環境が変化している現状では、全中があと何回行われるか分かりません。その中で優勝を果たすことは、すごく意義のあることだと選手たちに伝えて臨みました。
--そうした中川監督の気持ちに応えた選手たちに、あらためてどんな言葉をかけたいですか?
中川 特に、3年生の二人(松山と小路)はよくやってくれました。期待以上の活躍をしてくれたので、そこは本当にありがとうという気持ちです。もちろん、2年生、1年生もそれぞれ活躍してくれて、もう少しすんなり勝ってくれたら楽でしたが(笑)、本当に全員でつかみ取った優勝で、みんなに感謝しています。
--全中から話を変えまして、日頃の指導についてお聞かせください。
中川 最近では橋津先生から任せていただいている部分もたくさんあって、練習メニューを考えたり、今年から国スポ(国民スポーツ大会)の監督もやらせていただくので、中学生だけではなく、高校生も指導しています。
日頃の指導では、サービスやレシーブなどで気づくことがあれば、「もうちょっとこうしてみたら?」というような声かけを中心にしています。
--選手たちは日々成長していくと思いますが、そうした変化に対して、どのような接し方を心掛けていますか?
中川 うちは、橋津先生がいて生徒がいて、その中間に僕がいると思うんですよね。ですから、選手たちとの距離は近いのかなと感じています。
誤解を恐れずに言えば、橋津先生は厳しさがないといけない。その中間というか中和剤として、僕がコミュニケーションを取りやすい位置にいた方が選手もやりやすいと思いますし、そのように心掛けています。
--中川監督から見て、橋津監督はどのような存在ですか?
中川 僕が感じる橋津先生の素晴らしいところはマネジメントですね。選手の個々や部の管理、危機管理など、そうしたところのマネジメント能力がすごく長けています。まねをしたい部分がかなりあるのですが、まだまだ自分は未熟でできないところも多いので、そこは橋津先生の背中を追いながら身に付けていっているのが現状です。
--現在は、中学校の部活動の地域展開など、教育現場における部活動を取り巻く環境が大きく変化しつつあると思います。現状やこれからについて、中川監督はどのようにお考えですか?
中川 いろいろな考えがあってすごく難しい問題だと思いますが、僕自身は部活動で育ってきましたし、部活動は今後も続けてほしい思いは強くあります。野田学園に入学してくる選手に対しては、学校教育の中で育っていってほしい。
部活動における卓球の成績ももちろんですが、人間的な成長という点でも学校生活と部活動でしか得られないものがたくさんあると思うので、そういったところも学びつつ、在学中はもちろんですが、卒業した後でも世界を目指して頑張ってほしいという思いで日々の指導に当たっています。
一生懸命に卓球部を応援して、学校を盛り上げたい気持ちでいっぱいです
--本日はお時間をいただきましてありがとうございます。インターハイ初優勝おめでとうございます。校長先生として、この結果をどのように捉えていますか?
清水 初優勝ですから、「待ちに待った!」というのが実際のところです。本当にめちゃくちゃうれしかったし、楽しかったですよ。決勝も会場まで見に行きましたが、皆さん本当に盛り上がって応援して、その中で優勝を決めてくれたことが本当にうれしかったですね。
--これまで、8度決勝に勝ち進んで、あと一歩というところで優勝に手が届きませんでした。
清水 野田学園には卓球部のほかにもう一つ、女子テニス部が強くて、その女子テニス部と卓球部が争うように全国で活躍するんですが、女子テニス部が9年前に優勝しました。ですから、ぜひとも卓球部にも優勝してほしいなというふうに、この9年間ずっと思っていました。
--地元での初優勝も意義が大きかったかと思います。
清水 決勝戦を見に行った時に会場が満員だったんですよね。もちろん、選手たちの保護者の方々も熱心に応援されていましたが、地域の方々も皆さん応援に駆けつけてくださって。地域から応援されていることを実感して本当にうれしかったですね。優勝した後、いろいろな方々からお祝いの言葉やメールをいただきまして、本当に卓球部、よく頑張ったな!という思いです。
--あらためて、初優勝を成し遂げた選手たちに、校長先生からどんな言葉を贈りたいですか?
清水 本当によくやったな!の一言です。1年生が主体のチームでしたから期待も大きかったのですが、1年生だけでなく、3学年のチームワークが本当に良かったですね。観客席から見ていて、みんなが励まし合って良いチームに成長したなと思いましたね。
--悲願成就の橋津監督にはどのような言葉をかけたいですか?
清水 実はこれまでも、いろいろな試合を応援しに行きましたが、なかなか優勝に縁がなかったものですから、今回のインターハイは本当によくやった!良かった! そういう気持ちでいっぱいです。
--ここからは、野田学園における卓球部について聞かせていただきたいと思います。野田学園において、卓球部はどのような存在ですか?
清水 卓球部と、先ほども申し上げましたが女子のテニス部、この2つの競技については、学校を代表する特別な部活動ということで、いろいろな応援をするという体制で臨んでおります。
--具体的には、どのように支援をされているのですか?
清水 ほかの競技と違っていろいろな試合に出ますので、その遠征に対する支援はしておりますが、やっぱり田舎の小さい高校ですから、もっともっと支援が必要だなというのが実感です。
学校としてはもうかりませんけれども(笑)、やっぱり卓球部が頑張ってくれることがものすごく学校を元気にしてくれるので、それが一番うれしいですね。
それからもちろん、戸上隼輔や吉村真晴などOBの活躍を生徒たちも非常に楽しみにしておりますし、何よりうちの教員たちが彼らのファンですので、本当に喜んでくれています。ですから、学校としても一生懸命に卓球部を応援して学校を盛り上げたい気持ちでいっぱいです。
--昨今、中学校の部活動の地域展開に象徴されるように、教育現場における部活動の在り方が変化してきています。この点について、校長先生としてはどのように捉えていますか?
清水 野田学園としても非常に難しい問題だというふうに考えておりますが、うちは私学ですので、部活動を地域移行するということはございません。ですから、現状をどのように盛り上げていくかということを考えています。ただし、社会の流れの中でこれからどうしていくべきか、というのは常々考えております。
高校は、特にインターハイの学校対抗が非常に大きいので、そこは維持できるよう、学校側としても引き続き応援していきたいと思っております。
--最後に、今後、野田学園として卓球部にどのようなことを期待されますか?
清水 まず、今年の高校のチームは1年生が主体のチームでしたので、あと3年期待したいですね。また、この前、吉村真晴が帰ってきた時にも言ったのですが、岩井田がオリンピックに出るまでなんとか私も応援したいと思っています。
加えて、全中でも優勝していますので、今の本校の卓球部の活躍が永遠とは言いませんが、橋津監督が頑張っている限りは続くよう応援したいと思っております。
--分かりました。最後に校長先生から橋津監督へエールを送っていただけますか?
清水 可能な限り応援するので、また優勝を目指してどんどん頑張ってほしい。生徒も教員もみんな応援しています!
--本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
↓動画はこちら
インターハイ、全中を制覇!野田学園【練習編】はこちら
インターハイ、全中を制覇!野田学園【選手編】はこちら
(取材/まとめ=卓球レポート編集部)




