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ティモ・ボルの卓球脳 
vol.03 変化への適応

 2025年6月15日、ドイツ・ブンデスリーガ2024-2025シーズンのプレーオフ決勝を最後に、ティモ・ボル(ドイツ)は華麗な卓球人生に幕を下ろした。
 そのキャリアを通じて、彼は創造性あふれるプレーとフェアネスに満ちた振る舞いで、30年以上もの間、私たちを魅了し続けてきた。
 では、なぜボルはこれほど長く第一線で活躍し続けることができたのか。
 その答えを探るべく、卓球レポートは引退後初となるインタビューで、技術・戦術・フィジカル・メンタルといった多角的な側面から、「卓球脳」とも呼ぶべき彼の深い洞察に迫った。
 第3回では、長きに渡る選手生活において、さまざまなルール変更に際して迫られた変化に、ボルがどのように対応してきたのかを聞いた。



変化に素早く適応できたのは最大の資質だった

 私が30年以上にわたり卓球選手を続けてきた間にはさまざまなルールの変更がありましたが、私にはその変更において何が重要かを感じ取る才能があり、それが非常に役立ってきたと思います。
「今、この変化に対応するための最善の方法は何だろうか?」「これからも成功し続けるために、何をすべきだろうか?」
 そう考え、その答えをすぐに認識し、切り替えることができました。
 そのため、多くの人々が私のプレースタイルからすると切り替えが難しいと考えていた時でも、実際には私は常に最も早く変化に対応し、すぐに慣れて良いプレーをできるようになっていたのです。
 それはあらゆる変更について同じでした。だから、私は、ある時点からはそれを問題だとさえ感じなくなりました。むしろ、とても早く対応できるため、そのような変更は私にとってむしろ有利になる可能性さえあると考えるようになりました。そして、それは、おそらく私の最大の資質の一つでした。
 まるでカメレオンのように新しいことに対応でき、ブランクも生じなかったということは、数々のルールの変更は私にとっては大きな違いにはならなかったということだと思います。

戦術的な理解で変化を乗り越えた

 特に、弾む接着剤が禁止されたとき(ITTFが「2008年9月1日よりスピードグルーおよびブースターの使用禁止」を決定)のことをよく覚えています。当時は、誰もが「ティモは不利になるかもしれない」と思っていました。
 私の打球の回転量が減り、スピードも遅くなるだろうと。
 そして、2008年、弾む接着剤が禁止された直後に、ワールドカップがありました。そこで私は準決勝で馬龍(中国)と対戦して勝ち、それまでの自分と変わらないレベルでプレーすることができました。
 ボールが大きくなったとき(38mmボールから40mmボールへの変更)や、プラスチックボールに変更されたとき(ボールの材質がセルロイドから非セルロイドに変更された)もそれは同じでした。
 多くの人が私のボールの回転量が少なくなるだろうと思っていたのです。しかし、私は卓球をとてもよく理解していて、成功するために何をすべきかをすぐに把握することができました。このスポーツに対する戦術的な理解が、私の最大の強みだったと思います。

 一つ例を挙げると、38mmボール時代の私のプレーは、サービスが非常に良く、相手はそれを短くレシーブすることが難しかったのです。
 そして、そのレシーブの処理も私はとても得意でした。レシーブがハーフロングの長さで、もしくはそれより長く返ってきたら、私は非常に強い回転でドライブをかけることができました。その質が非常に高く、それだけで80%くらいの確率でポイントを取ることができたのです。
 しかし、ボールが大きくなって以降は、それはできなくなりました。私のドライブの回転量も減り、相手は以前よりも簡単にブロックできるようになったからです。
 そこで、私が考えたのは、今までのように3球目攻撃でポイントを取ろうとするのではなく、5球目攻撃でポイントを取ろうということでした。そして、5球目攻撃でボールを早く捉えて正確に打ち込めるように調整したのです。つまり、集中力や意識を、3球目だけでなく、その後の5球目攻撃にも向け、3球目攻撃はコースを重視し、5球目攻撃では威力を重視しました。
 こうしてプレーは徐々に複雑になっていきました。
 制約が増えれば増えるほど、使える武器が少なくなれば少なくなるほど、それに伴い、年月とともに戦略が重要になっていきました。戦略上、自分が持っている選択肢を、それまで以上に自分の頭の中に広げていきました。
 そしていつしか、私にとって卓球はチェスのようなゲームになっていったのです。 もはや打球の質に重点を置くのではなく、戦術や相手を混乱させることに重点を置くようになっていきました。
 以前は、打球そのものの質がより重視されていましたが、年月を経るごとに、そしてルール変更のたびに、私の打球の質は奪われていきました。そして、次第に戦略がより重要になっていったのです。

38mmボール時代のボルはサービスと3球目攻撃を得点源にしていた(写真は1999年)

難しかったプラスチックボールへの対応

 最も難しかったのはプラスチックボールへの対応でした。それはメーカーごとのボールの違いがあまりにも大きかったからです。
 ブンデスリーガでプレーしている私たちにとって、チームごとに異なるメーカーの卓球台やボールでの試合は、プレーが変わるものですが、国際大会ではまた異なる組み合わせになります。
 そして、この絶え間ない切り替えに対応し、備える時間が必要です。その結果、状況はとても、とても複雑になってしまいました。頭の中であらかじめ考えておくことが必要になったのです。このボールと卓球台ではこの戦術を使い、また別のボールや卓球台では全く異なる戦術を使うということをです。
 すぐにはリズムがつかめず、常に完璧な感覚でプレーするのは難しかったのですが、それに合わせるように私自身の動きも徐々に遅くなっていったため、異なる卓球台とボールへの対応はさらに難しくなっていきました。
 以前のようにボールに対してうまく動いてポジショニングすることができず、それを身体能力でカバーすることもできなくなってきたのです。リズムをつかみ続けることは、信じられないほどに頭を使う作業でした。それが一番難しかったです。

 テニスで、もしフェデラーやジョコビッチやナダルが、2、3日ごとに芝のコートとクレーコートを行き来しなければならなかったらどうなっていたか、想像してみてください。しかもそれが延々と続くのです。
 さらに、卓球では反応する時間がテニスよりもはるかに短い。考える時間もスイングする時間も十分になく、すべてを無意識に身体が反応するように動かなければなりません。そして、それが私たち選手の状況をかなり難しくしています。そのため、時には意外な結果が生じることもあるのです。
 経験を積むと、このボールは速い、高く弾む、あるいは低く弾む、といった特徴が大体わかってきます。そして、それに応じた戦術を立てる必要があります。とはいえ、感覚はすぐには新しい条件に対応できず、自動化された動きによってミスが生じてしまいます。頭では分かっていても、感覚で動けるようになるまでには時間がかかるのです。

プラスチックボール以降はブンデスリーガに加え、国際大会でも異なるボールと卓球台への対応に追われた(写真提供=WTT)

 次回は「サービス、レシーブ、ラリーそれぞれの戦術」と題して、ボルの具体的な戦術、技術についての考え方を聞いた。

↓動画はこちら

(取材/まとめ=卓球レポート)

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