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張本智和インタビュー 
世界卓球2023ダーバンを振り返る④

 このインタビューでは、世界卓球2023ダーバンにどう臨み、どのように戦い、その結果をどのように受け入れ、そして、今何を思うのか。張本智和(智和企画)の今に迫る。
 第4回は、張本が感じる自身の成長とその背景、また、20代の展望について聞いた。
(※このインタビューは2023年6月9日に行われたものです)



洗濯もラバー貼りも絶対何かにつながると信じている

--もちろん卓球選手としても強くなっていると思いますが、自分の人間的な成長や変化も感じますか?

張本智和(以下、張本) 自分ではあまり言うことはありませんが、去年1年間で成長したと思うんですよ。今までの人生は遊びだったんじゃないかと思うくらい濃い1年だったので。今までは本当に、卓球をやって、勝ったら褒められて、負けたら怒られて。生活は全部管理されて、ご飯を食べろと言われたら食べればいいし、寝ろと言われたら寝ればいいし、本当に子どもだったなって思います。
 去年1年間は、大きい成功もあったり、逆に、今まで経験したことがないような失敗もあったりっていうのが、人として大きくしてくれたのかなと思います。
 2年前までは、大会で遠征に行っても、親が洗濯とかラバー貼りをやってくれていました。単純に洗濯をする、ラバーを貼り替える作業時間と労力だけを見れば、卓球選手には絶対に要らないんですよ。30分洗濯する時間があったら、30分早く寝た方がいい。でも、自分でやることで困難に立ち向かえるというか、何かにつながっていると信じています。勉強もそうです。数学をやってもストップはうまくならないし、バックハンドが強く打てるようにもならない。でも絶対何かにつながっているって信じていますし、意味のあることだと感じています。

--主体的に行動できるように環境が変わってきたのですね?

張本 一人暮らしを始めたこともそうですし、今は所属がないこともそうですし、練習相手も自分で探さなきゃいけない。結局自分のことは自分に返ってくる。
 親やコーチも試合に負けたら一緒に悲しんでくれるけど、一番悔しいのは絶対に自分です。もし、僕よりも両親が一番悔しいなら両親の話を聞くし、自分が負けても悔しくなくてコーチが一番悲しんでくれるなら全部コーチの言う通りにしますが、何をしても結局自分が一番苦しい、傷つくのは自分です。それだったら、自分で責任を取れるように、自分でも「悔しい」に納得できるようにしたいと思うようになりました。
 今回で言えば、自分の負けに、悔しさに納得できるようになったのは、ひとつ成長だと思います。いつもだったら、負けて悔しいってわめき散らして、悔しい悔しいとい言っているだけだったのが、両親に相談して、コーチに疑問をぶつけて、話を聞けるようになった。もちろん、みんな自分のためを思ってアドバイスしてくれますが、結局それを生かすも殺すも自分なので、いい方向には向かっているなと思っています。
 19でここまで来れたかって(笑) 19歳で今くらいのところまで来られたので、20代の自分に期待しています。
 17、18歳の時はあんまり自分の将来に期待できていませんでした。「今が絶頂なのかな」とか、「15、16歳の頃の方が注目されていたな」とか思っていましたが、注目されようがされまいが、20代の自分にはすごく期待できます。次の10年がどんな10年になるんだろうってめっちゃワクワクしています。

20代は復習。今までに解いた問題を難なく答えるだけ

--10代は苦しい時期も長かったと思いますが、20代は楽しくなりそうですね。

張本 13、14歳の頃に活躍したメリットが、やっと今になって現れてきた感じですね。逆に去年までは一番つらかったですね。最初は何事も楽しくて、停滞する時期があって、そこでやめるか、もう一回楽しい時期が来るかと思っていましたが、今は、楽しい時期がもう来始めている気はしています。
 もう、どんな失敗も、どんな負け方も経験したし、0対3から逆転もあるし、3対0から逆転もされたし、たぶん、あらゆる場面を10代のうちに経験してきました。
 オリンピックを含めて、出たことがない大会もないし、勉強で言ったら、20代は復習ですね。今までに解いた問題を、難なく答えるだけ。自分が勝てなかった選手はどんどん引退していくし、そうなれば自分が一番上に来ますよね。
 中国を見ても、張継科、馬龍、樊振東、王楚欽がいて、今は馬龍、樊振東の時代から樊振東、王楚欽の時代になって、中国にしてみれば、王楚欽、林詩棟の時代につなげたいところだと思いますが、そこで自分が邪魔する、台頭するイメージですね。自分は林詩棟よりも何年も早く活躍していますし、王楚欽は僕より先に出てきていますが、その次は絶対に僕だと思っています。そこが目標ですね。

--張本選手の中では明確に未来予想図が描けているという感じですね。

張本 この数年だけでも、サムソノフ(ベラルーシ)とか水谷さん(水谷隼/木下グループ)、丹羽さん(丹羽孝希/スヴェンソンホールディングス)が(国際大会を)引退したのを見て、誰がいつ引退するのかも見てきましたし、誰が大体どこまでやるか、いつになったら自分が一番上になるのかはなんとなくは見えています。
 例えば、もし馬龍、樊振東、梁靖崑、王楚欽が全員引退したら、必然的に僕が1位になると思いますが、それを待っているようでは絶対にダメだし、そこを超えるつもりでやらなければいけません。その時には強い若手が出てくるかもしれないけど、単純計算で言えばそういうことになるので、そこまでの我慢という気持ちもあります。
 一方で、今の上の4人を打ち破りたいという気持ちもありますが、今はすべてを手に入れた馬龍も、その前は王皓に(世界卓球で)3回負けています。樊振東も、それまでは馬龍に負けていて、馬龍が出場していないあの1回(世界卓球2021ヒューストン)で優勝したので、馬龍を打ち破って優勝したわけではない。
 そういう意味では、張継科は馬琳、王皓がいた中で、自分の力で変えたと感じました。卓球だけだったら僕は馬龍より張継科の方が好きですね。馬龍もすごいけど、ちゃんとやることをやった結果、ちゃんと卓球を続けた結果で今がある。もちろん、すごい努力もしたし、心が折れそうな時もあったと思いますが、最後まで王皓のことは打ち破れませんでした。
 だから、「待っていれば来る」と思わずに努力し続けることができれば、来ると思います。ちゃんと自分が樊振東に勝ちたい、王楚欽に勝ちたいと思って努力し続ければ、その時はやってくるのかなと。

2018年ジャパンオープンでは14歳の張本が馬龍を破り世界を驚かせた

突然変異だからこそ分かる「強くても勝てない」理由

--そうした中で、張本選手のような突然変異的な強い選手が出てくるという怖さはありませんか?

張本 いや、あります。林詩棟にはそういう怖さを感じますし、樊振東も出てきた時はそんな感じだったと思いますが、結局、馬龍に勝てなくて、それも経験の差だったと思うんですよね。たぶん、デュッセルドルフ(世界卓球2017デュッセルドルフ)の時も樊振東の方が強かったけど、決勝で馬龍に勝てなくて、ハンガリー(世界卓球2019ブダペスト)でも4回戦で梁靖崑に負けて、そこには絶対に理由があると思うんですよ。自分が突然変異だからこそ分かります。「強くても勝てない」という理由が。
 僕も13歳で出てきて、もしかしたら今ごろ世界チャンピオンになっているのをみんなが期待していたし、自分も期待していたかもしれません。去年、一昨年までは、僕も、チャンスがあったのにできなかったと思っていましたが、最近は、14歳で馬龍に勝てたからって、イコール・オリンピックチャンピオンじゃないんだということが分かります。
 そんなこと言ったら、僕が小学生の時に市民大会で僕に勝ったおじさんもいますし(笑)、誰に勝てたから、負けたからどうこうというのはなくて、勝敗は一個の成長するポイントというだけであって、負けも忘れてしまったら意味がない。
 僕は、全日本ジュニア(平成28年度全日本卓球選手権大会ジュニアの部、男子準々決勝)で宮本春樹さん(クローバー歯科カスピッズ)に負けたのを今でも覚えています。その次は、全日本(平成30年度全日本卓球選手権大会男子シングルス準決勝)で大島さん(大島祐哉/木下グループ)に負けたのが悔しい、宇田さん(宇田幸矢/明治大学)に負けた(2020年全日本卓球男子シングルス決勝)のが悔しい、今は、梁靖崑に負けたのが悔しいと、悔しいのレベルがだんだん上がってきているのもいいことですし、次は樊振東に負けて悔しいと思えれば、その次には樊振東に勝てると思っています。
 今までは飛び級で上がってきたので、最後は、しっかり一歩一歩、突き詰めて登れればいいのかと思います。

--最後は飛び級しないで「(樊振東に)負けて悔しい」をちゃんと通過していくんですね?

張本 もちろん飛び越えられるなら飛び越えたいですけど、飛び越えるのがどれだけ難しいか。相手も頑張っているし、自分だけが悔しくて、自分だけが頑張っているわけではないので。もちろん、一瞬でオリンピックチャンピオンになれるならなりたいですけど、簡単になれないのは分かっています。
 樊振東でさえ、その飛び級はできていないし、自分の番が回ってきて、そのチャンスを生かしているだけであって、王楚欽も普通に行けば、樊振東がもう少し年を取ってから、1回はチャンピオンになるでしょう。それを邪魔するのが目標ですね。次は王楚欽じゃないぞ、林詩棟でもないぞって。
 ボルオフチャロフ(ともにドイツ)も、結局最後、そういう「邪魔」をできていませんよね。中国選手1人に勝ってベスト4はあるけど、最後まではいけていない。女子でも早田さん(早田ひな/日本生命)が王芸迪(中国)に勝ったのはすごいけど、孫穎莎(中国)がいて、その次には陳夢(中国)が待っていて、壁が3枚ある。だから、1歩1歩進んでいきたいですね。

いくつもの「悔しい」が張本を強くしてきた(写真は平成28年度全日本卓球)

(まとめ=卓球レポート)

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