ハイテンションを研究していけば大きなアドバンテージになるという確信がありました

バタフライの裏ソフトの歴史を語る時、絶対に外せないラバーが3枚ある。1967年に発売され、高弾性の合成ゴムを世界で初めて使用した『スレイバー』。バタフライ独自の技術で、97年に世界初のハイテンション ラバーとして衝撃的なデビューを果たした『ブライス』。そして08年発売の『テナジー』だ。長年積み重ねてきた研究開発の最先端に、『テナジー』というラバーは存在する。

「性能」と「品質」。ラバーの研究開発では、この両者のバランスが求められる。『スレイバー』が67年に発売され、30年の時を経て『ブライス』が発売されるまでは、品質の安定が最大のテーマだった。夏場になると、ラバーの表面が白く粉を吹いたようになる「ブルーム」もしばしば発生した。
ラバーの生産現場では、空調を効かせて厳密な温度・湿度管理を行い、一定の環境下で生産しても夏と冬では硬度の違いなどが出てくる。そのためプレス(焼成)する時の温度やゴムの配合にも微妙な調整を加えながら、一定の品質を保つことを目指した。
ハイテンション ラバーという新しい価値を生み出した『ブライス』の開発は、80年代後半にはすでにスタートし、91年頃にはプロトタイプ(試作品)ができていた。3年後の94年から、バタフライは大規模な設備投資やスタッフの増員を開始。ハイテンションという最新技術の研究に注力していく。

「『ブライス』の試作品が生まれた頃、研究開発チームはまだ新製品開発部という名前で、スタッフも3人しかいませんでした。その3人でラケットもラバーも開発していたんです。現在では、研究開発チームに23人が在籍しています。
ハイテンションという技術は、将来的には高性能ラバーの基本技術になり、研究していけば大きなアドバンテージになるという確信がありました。そこで、当社独自の「ハイテンション技術」の研究を先行的に進めていきました」(山崎)。
『スレイバー』にただテンションをかければ、弾むラバーにはなる。しかし、それだけではトップシートの表面が劣化したり、スポンジが裂けたりするなど、品質がガクンと落ちる。それをクリアすることで『ブライス』は誕生した。
『ブライス』発売後の市場には、性能のみを追求してトップシートだけを改良した結果、スポンジが負けてバックリング(ラバーが丸まること)を起こしたラバーも少なからずあった。しかし、『ブライス』は常にフラット(平坦)。バックリングするようなラバーは、バタフライではラバーのうちに入らなかった。時に過剰とも思える品質へのこだわり。それはバタフライの企業風土であり、「信頼」というブランドイメージの源だ。
性能だけでなく、品質という面でも、ひとつの到達点であった『ブライス』。
その開発に目途が立ってきた時、性能という部分を見つめ直すと、次世代ラバーで着手すべきポイントはおのずと浮かび上がってきた。

まずひとつはスポンジだ。『ブライス』でもスポンジは改良されたが、この時に最も重視したのは、ハイテンション技術に耐える強度を備えたトップシートを作ることだった。性能の部分でスポンジが大きな意味を持つことは昔から知られていたが、当時はハイテンションという新技術だけでも強烈なインパクトがあり、スポンジを全面的に作り直すまでには至らなかった。
次に裏ソフトの性能を左右する要素として、トップシートのツブ形状がある。ここもなかなか踏み込めなかった部分で、長く『スレイバー』のツブ形状が王道だった。トップシートのツブを高くした新しいツブ形状を採用し、ポスト『スレイバー』としてリリースした意欲作『セルビド』(89年発売・現在は廃番)は、思うように売れ行きが伸びなかった。
品質へのこだわりと同時に、より高い性能を追求してバタフライのラバー開発は新たなステージへと進む。全く新しいスポンジの開発、トップシートのツブ形状の研究、そしてハイテンション技術を『ブライス』の段階からさらに高めること。この3つの技術革新の先に、『テナジー』が誕生することになる。