力強くボールをはじき出す。画期的な性能を備えた「スプリング スポンジ」

打球のスピードと回転。その両方に密接に関わっているスポンジ。それは、どのように作られるのだろうか。
ラバーを構成するトップシートとスポンジは、使用する薬品などは異なるが、天然ゴムと合成ゴムを配合して練り合わせるところまでは同じ。たとえるなら、同じ小麦粉を使って「コシのあるうどん」と「ふんわりとしたパンケーキ」を作るようなものだ。スポンジを作るゴムには、パンケーキを作る時に加えるベーキングパウダーに当たる発泡剤を加える。混ぜた段階では見た目に分からないが、加熱した時に気泡が生じる薬品だ。
卓球ラバーに使用するスポンジは独立気泡スポンジ、あるいは単独気泡スポンジと呼ばれる。ゴムの中に発生した気泡が壁に隔てられ、独立した状態になっており、弾性が高いことが特徴だ。水分を通しにくいことも特徴の一つで、プールの更衣室に敷いてあるマットや、「バタ足」の練習に使うビート板は、この独立気泡で作られている。
一方、気泡と気泡の間に壁がない連続気泡のスポンジは、収縮性があって水分を吸収しやすい。食器を洗うスポンジやテニスラケットのグリップのウレタンなどはこのタイプ。日本のスポンジ製造技術は高水準で、海外の製造業社はなかなかまねできないという。

前述したように、まずは『ブライス』のスポンジと同等の性能に到達し、それを超えていくことを目指した。そのために機械メーカーに小型の試作機を作ってもらうことから始め、試行錯誤を重ねた。同じゴムに複数の発泡剤を入れ、多数のサンプルを作って良いものを選抜する。その作業を延々と繰り返しながら、地道にノウハウを蓄積していった。
より弾性の高いスポンジを作るための取り組み。一部の関係者で集まるミーティングで使用した「高弾性スポンジ」という名称が、そのまま開発プロジェクトの名称になった。そのプロジェクトの存在は社内でも極秘だった。
「実働部隊は3人しかいませんでした。もちろん、社長はプロジェクトの存在を知っていましたが、中身は詳しく知らない。『世界最高のラバーを作ります。だから投資してください、お金を出してください』と言っていました」(山崎) 
スポンジの性能向上に有効な成分を研究する中で、山崎はスポンジの生地に食用油を練り込んだこともあるという。新しいスポンジを作るためなら何でもやってやろうという研究者魂だった。
ハイテンション技術という『ブライス』の革新性に安住することなく、近道をせず、スポンジにイノベーションを求めたバタフライは、まさに『フロントランナー』だった。

スポンジの研究開発に着手してから2年がたち、3年がたち、少しずつ形になっていった新作スポンジ。最初の『テナジー』のプロトタイプ(試作)が出来上がったのは、卓球界が40ミリボールの導入で騒がしかった2000年頃だ。
「スプリング スポンジ」の最大の特徴である大きな気泡。それは1ミリの1000分の1という「ミクロン」単位の世界の中で、従来の気泡よ3倍ほど大きいものになった。ただし、気泡が大きくて少ないか、小さくて多いかの違いで、気泡が占める体積は同じ。『テナジー05』はゴム質の密度が高く、粒のピッチ(間隔)も狭いので、従来のラバーよりむしろ重く仕上がっている。
「気泡が大きいと弾性が高くなる」というデータがあったわけではない。弾性を追求した結果として、スポンジの気泡が大きくなった、と言う方が正しい。
それまでにも気泡が大きく、食い込みが良いスポンジはあったが、それは硬度が低くて軟らかいスポンジだった。ボールが食い込むだけで、はじき返す強さがなかった。しかし、『テナジー』はボールを力強くはじき返す。その弾性の高さ、エネルギー効率の高さこそ、まさに研究開発チームが求めていたものだった。新しいスポンジの研究開発は、試行錯誤の日々だった。


顕微鏡で見た「スプリング スポンジ」の気泡(左写真)と、従来のスポンジの気泡(右写真/ともに200倍に拡大)。この気泡の大きさが「スプリング スポンジ」の特徴だ

プロトタイプのトップシートは、『ブライス』の改良版だった。トップシートに関しては、スポンジを開発した後に、その相乗効果を高めて性能の高いラバーに仕上げていくことができるという自信とノウハウがあった。
産声を上げたばかりの新作スポンジ。「スプリング スポンジ」と名付けたのは、研究開発に心血を注いだ研究開発チームのスタッフだ。プロトタイプの時点では着色していなかったスポンジも、後に赤く着色される。スタッフたちはその赤色を「エナジーレッド」と呼んだ。これまでにないネーミングと、これまでにないルックス。この画期的なスポンジを、他と差別化したいという意志の表れだった。
スポンジやトップシートは、ごく少量の顔料を加えて着色するので、ラバーの性能には全くといえるほど影響を与えない。「当社では色によるスポンジの優劣はありませんし、色によってラバーの性能に差が出るということもありません」と久保も語る。それでも、新作スポンジの研究開発にかけたエネルギーと『テナジー』そのものが持つエネルギーを、誰の目にも分かる形で表現したかった。

「スプリング スポンジ」と名付けられた、情熱の赤いスポンジ。それは『テナジー』の爆発的なヒットにひと役も、ふた役も買ったといえる。「赤いスポンジ=テナジー」ということは多くのユーザーの知るところとなり、トップ選手がプレーする映像や画像を見ても、「この選手が使用しているラバーは、赤いスポンジだから『テナジー』だ」と瞬時に認識できるからだ。また、巷の卓球大会に参加しても、周りの選手のラケットをチラリと見ただけで、「あの人は『テナジー』を使っている」「この人も『テナジー』だ」とすぐに気づくだろう。
さて、プロトタイプの誕生で、はるか彼方に見えていた山の麓にたどり着くことができた。しかし、ここから「テナジー」の発売まで、およそ8年。この後の苦闘の連続が、結果的に『テナジー』を最高のタイミングで市場へ送り出すことにつながっていく。

【卓球王国 2016年10月号掲載】
■文中敬称略
取材=卓球王国
撮影=江藤義典
写真提供=株式会社タマス


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