膨大な金型の作製は基礎研究の集積につながり、新たな粒形状にたどり着いた

スプリング スポンジと相性の良い、新しい粒形状の開発。それはスプリング スポンジの量産化に奮闘していた2005年にスタートしている。
『テナジー』の試作第1号ができた2000年ごろは、まだ粒形状は『ブライス』と同じものだった。そこからすぐに粒形状の開発へと向かわなかったのは、スポンジとトップシートを同時に変えてしまうと性能試験がやりにくくなるからだ。良い結果が得られたとしても、スポンジとトップシート、どちらが性能を高めているのかが分からない。
まずシートは従来のものをベースにした上で、スプリング スポンジの性能や品質を高めていき、それからトップシートに着手する。ちょうどトップシートに着手するタイミングで、ノングルー時代の到来が迫り、新たな粒形状の開発へと舵が切られた。
挑戦者精神に燃えた研究開発チームのスタッフ。しかし、成功への道のりを知る王者とは違い、挑戦者の胸は不安でいっぱいだった。何しろ粒形状を合わせていくのは、全く未知のスポンジだ。
「スプリング スポンジが本当に良いものだという手応えを感じたのは、実は『テナジー05』の発売以降なんです。それまでは不安の方がずっと大きかったんですよ」(細矢)。それは研究開発チームのスタッフの率直な心境だった。独特の打球感と重量感、従来のラバーとの軌道の違いによって、『テナジー』の試打評価は低い時期があったのだ。
「例えばシュラガー選手は『ブライス』にグルーを塗って使っていたので、彼にはスプリング スポンジよりも『ブライス』や『ブライス スピード』のような従来のスポンジの方が良いとはっきり言われました。カーボン系の硬くてブレないラケットが好みなので、打球時にバイブレーション(振動)がある『テナジー』は合わない。ラケットがブレて安定しない気がするという意見でした」(細矢)


『テナジー05』をサイドから撮影したもの。トップシートは粒の部分がスポンジに接着されており、この粒の高さや太さなどの「粒形状」、そして粒と粒の間隔などがラバーの性能に大きな影響を与える

今になって考えてみれば、スピードグルーが使える時代に『テナジー』の試打評価が低調だったことは、当時の選手の打法にひとつの原因があるのだろう。
『スレイバー』や『ブライス』をグルーイングして使っていたトップ選手たちの打法は、ヨーロッパ選手に多く見られるボールを「厚く」とらえる打法が主流だった。ボールを「薄く」とらえたときのグリップ力を生かし、前陣でのカウンター、後に大流行するチキータに威力を発揮する『テナジー』の特長は、当時の打法にはフィットしなかった。だが、2008年9月にスピードグルーが禁止され、打法が変化していく中で『テナジー』の評価は一気に高まっていく。
手探りの中でスタートした粒形状の試作。スプリング スポンジに合う粒形状として、確信が持てるものは全くなかった。
「本当に網羅的に作ったので、例えば粒が細くて間隔が広いものなど、最初はすごい粒形状もありましたよ。金型を作るまでもないと本心では思いましたが、それでも作ったんです。こういう粒形状なら、こういう性能が現れるという傾向を見ることができるからです」(久保)
結果的に製品化されない粒形状でも、性能試験の結果がデータとして残されることで、金型は決して無駄にならない。「どうせダメだろう」で終わらせず、「なぜダメなのか」をデータとして検証していく。
膨大な金型の作製には相当なコストがかかったが、基礎研究の集積という点で大きな意味を持っていた。その結果として、『スレイバー』とは大きく異なる、4枚の『テナジー』の粒形状にたどり着くことができた。「スプリング スポンジにマッチする、特徴のある優れた粒形状だ」と自信を持って言うことができたのも、基礎研究の礎があってこそのことだ。

それにしても、『ブライス スピード』の粒形状には、従来の『スレイバー』に近い粒形状が採用されたのに対し、『テナジー』ではなぜ粒形状にバリエーションが生まれたのか。それは試作した粒形状の多さだけでは片づけられない。
『テナジー』開発の三本柱は、スプリング スポンジの開発、ハイテンション技術の進化、新たな粒形状の採用だが、実は表に出ることのないもう一本の大きな柱が存在する。研究開発と並行して進められた、新たなラバーの評価システムの確立だ。
この新しい評価システムが、粒形状にバリエーションを与え、試打評価が低調だった、「眠れる怪物」の性能を証明し、発売決定へと導いた。『テナジー』の誕生は、評価システムの確立なくしては語れない。
従来のラバーの評価システムというのは、基本的に「反発係数」に重きが置かれていた。つまり、ラバーに当たったボールが、どれくらいの速さで跳ね返るかという「スピード」を重視していた。
例えば『ブライス スピード』は、この評価システムのもとで開発されたラバーであり、とてもよく弾む。粒形状を数十種類テストした中でも、従来の『スレイバー』『ブライス』に連なるような、スピードの出る粒形状が選ばれるのは当然だった。
しかし、この旧来の評価システムで『テナジー』を評価すると、選手の試打評価との間にズレが生じてきた。選手は十人十色、千差万別のスイングの中でボールを捉え、回転をかけていく。打球時にトップシートの粒とスポンジが連動し、ボールに回転をかけるラバーの「ひきつれ」、俗に言うラバーの「グリップ力」は、旧来の評価システムでは十分に測定しきれなかったのだ。
新しい評価システムを確立し、革新性をさらに高めた『テナジー』。その裏側には、ひとりの男の存在があった。

【卓球王国 2017年1月号掲載】
■文中敬称略
取材=卓球王国
撮影=江藤義典


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